ラオスの行政事件訴訟

ラオスの行政事件訴訟

 ラオスの行政事件訴訟は、2021年3月19日付、第001号の「行政事件訴訟に関する国家主席令」の公布により可能となった。経済・社会の発展、及び法の支配の構築を目標に、政治制度、経済・社会制度の維持、並びに国民の正当な権利の保護に必要であるとして、国民議会常任委員会の提案により、本国家主席令の制定に至った。

以下、「行政事件訴訟に関する国家主席令」の要約である。

 

  1. 行政事件訴訟

行政事件とは、下記の当事者間の行政関連事項に関する事件のことである。

  1. 政府機関、その職員・公務員と組織や市民
  2. 政府機関と職員・公務員
  3. 管理職の職員・公務員と一般職の職員・公務員
  4. 政府機関と政府機関

上記の政府機関とは省庁及びその同等な機関、ラオス建国戦線、ラオス旧軍人連合、大衆組織、各階級の地方行政機関、及び国営企業を意味する

また、上記の組織とは、民間企業、国際機関、及び政府機関でないその他の機関を意味する。

また、上記でいう職員・公務員とは、村長を含む、政府機関に所属する職員を意味する。

 

  1. 行政事件訴訟の基本原則

行政事件の訴訟は以下の基本原則に従って行う。

  1. 裁判官の独立

事件の尋問手続及び判決の宣告において,裁判官は独立し,法律のみに従ってこれを行う。

 

  1. 法・裁判所の下の平等

行政事件訴訟は、性別、人種、民族、経済的・社会的地位、言語、教育水準、職業、信条、居住地及びその他の要因にかかわらず,法及び裁判所の前において平等に行われなければならない。

行政裁判合議体は、事件の判決が事実と法に照らし適正なものとなることを確保すべくすべての市民、とりわけ事件当時者が行政裁判合議体に対して包括的且つ完全に情報,証拠を申し出,提出することで,訴訟遂行の平等を実現するように便宜を図る。

 

  1. 調停

行政裁判合議体は、両当事者が平和的に合意に達することのできる条件及び方法を模索し,当事者間の調停を試みることができる。

調停は、訴訟手続のいかなる段階及び審級においても行うことができる。なお、調停は法律に違反してはならない。

 

  1. 反論及び弁論

訴訟手続中,行政裁判合議体は,両当事者に対して,自らの主張について意見を述べ,説明を行い又は他方当事者の証拠に対して反論することを保証しなければならない。

行政裁判合議体による尋問手続において,合議体は当事者が証拠を申し出,自身の証拠について説明し又は相手方の証拠に対して弁論することを保証しなければならない。

 

  1. 包括的、完全及び客観的な訴訟手続

裁判所は,事件に関係する情報,証拠が包括的,完全且つ客観的に収集され,事件に関する出来事及び争点が明確となり、判決が適正且つ公正なものとなることを確実にするために,法に定められた各種措置を執らなければならない。

裁判所は,訴訟を遂行し,証拠を提出するうえでの当事者の権利義務を告知し,当事者が法律の定めるところに従って行動するよう指導しなければならない。

 

  1. 行政事件における民事損害に関する審理

行政事件における民事損害賠償に関する審理は、行政事件の審理と並行して行う。

行政裁判合議体が民事損害額を判断することができない場合、合議体はまず行政的事項について判決を下さなければならない。なお、民事損害賠償に関しては民事上の

解決を行う。

 

  1. 訴状にかかる審理の範囲

行政裁判合議体は,事件当時者又は第三者の訴えを審理しなければならない。事件当事者又は第三者が訴えなかった事項については,合議体は審理判決を行うことはできない。但し,国家,社会及び少年の利益に関する事件はこの限りでない。

また、事件の審理判決における裁判所の権限と責務、合議体による事件審理、法廷における尋問手続、使用言語、回避及び忌避申立、同一事件の審理に参加することの

禁止に関する原則は、民事訴訟法の規定に従う。

 

  1. 行政裁判部

行政裁判部は国会常任委員会の許可に基づき、最高人民裁判所、地域人民裁判所、県・都人民裁判所に設置される。

県・都人民裁判所に設置される行政裁判部は第一審として審理判決の権限を有する。

地域人民裁判所に設置される行政裁判部は控訴審として審理判決の権限を有する。

最高人民裁判所に設置される行政裁判部は破棄審・再審として審理判決の権限を有する。

 

  1. 行政裁判部の権限

行政裁判部は下記の各種の事件について審理判決を行うことができる。

  1. 生産活動、ビジネス、その他の事業、及び土地の管理に関する決定、命令、許可の不当な発行、停止又は取消行為
  2. 不当な処分又は免職
  3. 不当な人事移動、業務の変更、勤務先の変更
  4. 選挙管理委員会が解決できない選挙権者登録に関する誤り
  5. 国家及び市民に損害をもたらす、職員・公務員の職務活動における不当な業務の放置、遅滞、延期
  6. 違反金、税金、手数料、サービス料その他の料金の徴収、物品の没収、他人の財物の使用に関する、職員・公務員の違法な行為
  7. 交換又は賠償に関する不当な決定
  8. 業務責任に関する政府機関同士の不当な行為
  9. 最高人民裁判所裁判官会の決定に基づくその他の行政関連事件

なお、国家機密や、国防・公安維持及び対外関係における国家安全にかかわる事項は審理することができない。

 

  1. 行政事件の訴訟手続期限

行政事件の訴訟手続は以下の通りの期限内に終えなければならない。

  1. 第一審の場合、裁判官が訴訟事件を受理してから9か月以内
  2. 控訴審の場合、裁判官が訴訟事件を受理してから4か月以内
  3. 控訴審の場合、裁判官が訴訟事件を受理してから3か月以内、また、再審にの場合、裁判官が訴訟事件を受理してから2か月以内

訴訟手続が上記期限内に終えなかった場合、担当裁判官は当該裁判所の長官に対し、危険の延長を申請しなければならない。期限の延長は一回につき3か月以下とし、最大1年間とする。

訴訟手続の停止又は延期は訴訟手続期限に算入しない。

 

  1. 行政事件の当事者

行政事件の当事者は訴訟者及び被訴訟者である。

訴訟者は、自身の権利・利益が侵害又は抗議されたと訴えた市民、職員・公務員又は政府機関である。

市民が訴訟者となるには18歳以上かつ知的障碍者・精神障碍者でないことが要件である。18歳未満の者又は知的障碍者・精神障碍者の場合はその親又は後見人が代理して訴訟しなければならない。

被訴訟者は、違法な行為した、または訴訟者の権利・利益を抗議した管理職又は管理職でない職員・公務員又は政府機関である。

 

  1. 第一審における行政事件の訴訟手続

   7.1. 訴訟の時効

    行政事件の訴訟時効は1年である。但し、公益に関する事件は無期限である。時効の起算日は侵害について知った又は知るべきだった日から起算する。

   7.2.訴訟の提起

    訴訟者は、裁判所が指定した様式に従い、提出先の裁判所の名称、訴訟者及び被訴訟者の氏名、住所、連絡先(組織の場合は組織名及び代表者の氏名及び住所)、訴訟の原因となる事実及びその証拠、事件に関するその他の事実を記載し、署名した訴状を管轄裁判所の窓口又は登録の郵便番号、正式なEmail等に提出しなければならない。担当部署の訴状の受取日が訴訟の提起日の見なされる。

行政事件は、訴訟手続きに入る前に、行政上の解決手続きを終えなければならない。

   7.3. 調停手続き

    行政裁判合議体は、当事者の申し出又は合議体自身の意見に基づき、当事者及び訴訟手続にとって有益であると判断した場合、調停を行うことができる。

行政裁判合議体による調停は以下のように行う。

  1. 裁判官又は合議体は中立的な立場で行う
  2. 調停の成立は、当事者がそれを自発的にしなければならず、強制、強迫、または何等かの方法で当事者に誤解させることがあってはならない。
  3. 調停は、法、公益、公安又は社会秩序に違反してはならない。
  4. 調停が成立した場合、直ちにその記録書を作成し、当事者に署名させる。

調停が成立した場合、行政裁判合議体はその議事録が作成された日から5営業日以内にその執行命令を出さなければならない。当該執行命令は確定判決と同等な効力を有す

る。

  7.4.公判手続

合議体の長は行政事件の公判手続きにおいて、事件の審理を指揮する。

事件の審理は事件当時者やその他の裁判参加者の尋問や主張により進める。

行政事件の公判手続きは直接的、口頭で、公開して行い、尋問や弁論を行い、途中で裁判合議体を交代することなく、事件毎に継続的行い。裁判合議体が途中で交代された場合は始めから再審理しなければならない。

行政事件の公判手続きの進め方は民事訴訟法の規定に従う。

  7.5. 判決の種類

第一審の行政裁判の判決には以下の種類がある。

  1. 訴えに理由を欠けると判断する場合は棄却する。
  2. 訴えに十分な理由があると判断する場合は以下の判決を下す。
  • 政府機関、職員・公務員が違法行為をしたと訴えた場合は、当該の政府機関に当該の行政決定を取消又は一部変更するよう命じる。
  • 政府機関、職員・公務員が不当に違反金、税金、手数料、サービス料、その他の費用を聴収した、または不当な差押えをしたと訴えた場合は、当該の政府機関に金銭又は物品を訴訟者に返還する、または損害を賠償するよう命じる。
  • 関連の政府機関に侵害された権利を回復するよう命じる。
  • 控訴又は異議申立がある場合でも一部仮執行宣言するよう命じる。

第一審裁判所は、公判手続きが終了してから10日以内に当該判決の印刷を終わらせなければならない。

  7.6. 控訴また異議申立

第一審の判決に対し、判決の言い渡し日又は判決の受取日から20日以内に、当事者又は第三者が控訴し、また人民検察院の長官が異議を申立てることができる。

第一審の命令又は処分に対し、その発行日又は受取日から7営業日以内に控訴又は異議申立することができる。

  1. 控訴審における行政事件の訴訟手続

  8.1. 控訴審における審理の範囲

    控訴審は、第一審が審理判決した証拠及び法律上の問題について審理判決を行う。

控訴審は、第一審が審理判決しなかった事項又は控訴若しくは異議申立されなかった事項については審理判決を行わない。

  8.2. 判決の種類

    控訴審の判決は以下の種類がある。

  1. 控訴申立に関する規定に従われていないと判断した場合は控訴申立を却下する。
  2. 控訴又は異議申立を棄却し、第一審の判決を維持する。
  3. 第一審の判決の一部又は全部を変更した、新たな判決を下す。
  4. 第一審の判決を取り消して、第一審の同じ又は別の合議体に差し戻す。
  5. 第一審の判決をどの裁判所にも差し戻さずに取消す。
  6. 控訴又は異議申立がある場合でも一部仮執行宣言するよう命じる。

第一審裁判所は、公判手続きが終了してから20日以内に当該判決の印刷を終わらせなければならない。

 

  8.3. 破棄又は異議申立

控訴審の判決に対し、判決の言い渡し日又は判決の受取日から30日以内、当事者又は第三者が破棄申立、また人民検察院の長官が異議申立することができる。

控訴審の命令又は処分に対し、その受取日から10営業日以内に破棄又は異議申立することができる。

 

  1. 破棄審における行政事件の訴訟手続

  9.1. 破棄審における審理の範囲

破棄審以下の事項を取り扱う。

  1. 訴訟手続法及び本国家主席令の順守に関する事項
  2. 事実の認定及び解釈
  3. 事件の事実に対する法の適用

  9.2. 判決の種類

破棄審の判決は以下の種類がある。

  1. 破棄申立に関する規定に従われていないと判断した場合は控訴申立を却下する。
  2. 控訴又は異議申立を棄却し、控訴審の判決を維持する。
  3. 控訴審の判決を一部又は全部を変更し、下級審で認定された事実に基づいて新たな判決を下す。
  4. 控訴審の判決を取り消して、控訴審の同じ又は別の合議体に差し戻す。
  5. 控訴審の判決をどの裁判所にも差し戻さずに取消す。

破棄審の判決は法的な最終判決となる。

破棄審裁判所はその判決を20日以内に印刷し、関係する第一審裁判所に送付し、受取った第一審裁判所は10日以内に当事者に判決を通知しなければならない。

 

  1.  再審における行政事件の訴訟手続

  10.1. 再審の申立

当事者、第三者、及び最高人民検察院の長官は確定した命令、処分、または判決について、その受取日から1年以内に再審を申立てることができる。

  10.2. 再審事由

  新しい証拠が発見された場合における再審事由は以下の通りである。

  1. 事件の証人、鑑定人、通訳人が虚偽の証言をし、または偽造の証拠を用いられたために、誤った判決が下された場合。
  2. 裁判官又は人民検察官が不公平だったために、誤った判決が下された場合
  3. 事件に係る未提出の証拠があり、当事者は訴訟手続時に当該の証拠について知り得なかった場合。
  4. 新しい証拠を示す新たな事実があり、裁判官は当該事件の審理判決時にその事実を知らなかった場合。
  5. 事件に参加していなかった第三者から、当該の確定判決が自身の権利利益を侵害したとして、再審の申立が為された場合。

  10.3. 判決の種類

   再審の判決は以下の種類がある。

  1. 最高人民法院の長官による再審の申立を棄却する
  2. 確定判決を破棄し、権限のある第一審裁判所の新たな合議体に差し戻す。

 

  1.  本国家主席令に効力

本国家主席令はラオス人民民主共和国国家主席が署名し、官報に掲載された日から15日経過後にその効力を発する。

本国家主席令は、現在進行中の訴訟事件、または本国家主席令が効力を発する前の1年以内に発生した出来事に対し適用される。

出典:行政事件訴訟に関する国家主席令第001号