第1.事案の概要
車両及び各種電気機器の製造・販売等を業とする被告は、主要な取引会社であるJR西日本との請負契約に基づき、JRの工場内に設けられていた吹田出張所での車両の誘導業務(以下「本件業務」という。)を行ってきたが、平成11年9月末日、被告とJR西日本との請負契約が期間満了により更新されることなく終了しました。 これを受けて、被告は、出張所の維持及び人員の再配置は無理であると判断し、事態の経過や月3万円の給与の上積み等を行うなどの説明を十分に行ったで、本件業務に従事してきた被告の従業員6名全員に対して9月末を以て解雇する旨通知しました。これに対して原告が解雇は無効であると主張して従業員たる地位と未払賃金の支払を求めた事案です(なお、原告は、本来はJR西日本に雇用されるべきであるのに、形式上被告に雇用されることによって違法な就労形態を強いられ、人格権侵害に拠る精神的苦痛を受けたと主張して、被告に対し慰謝料の支払いも求めていました。)。 本件解雇に至る経緯は以下のとおりです。 被告は、昭和58年ころから、本件業務について国鉄と請負契約を締結し、そのころから4名の従業員を雇用し、また、昭和60年からは2名を追加雇用して吹田工場の本件業務に従事させるようになりました。その後、国鉄が民営化された後も本件業務はJR西日本と被告との請負契約(以下「本件請負契約」という。)で引き継がれ、平成9年ころには、原告を含め本件業務の従事者は6名であり、そのすべてを被告の従業員で占める状態となっていた。なお、平成11年ころの本件請負契約は毎年10月1日から翌年9月30日までの1年契約とされていました。JR西日本と被告との本件請負契約は平成11年9月末日の期間満了をもって更新されることなく終了しました。本件業務に従事する6名は、平成10年5月16日全大阪金属産業労働組合に加入し、原告を分会長として同労組大誠電気分会(以下「分会」という。)を結成し、その後本社勤務の被告従業員3名も分会に加入しました。その後、JR西日本は、平成11年5月19日、被告に対し、同年10月1日以降、本件請負契約を締結しない旨通知しました。 本件は被告の経営上の必要性に基づく解雇であり、いわゆる整理解雇に該当するとして、整理解雇に関する4要素に従って、その有効性が判断されました。
第2.裁判所の判断
裁判所は、他の整理解雇事例と同様に、整理解雇について、「使用者側の経営上の理由のみに基づいて行われるものであり、その結果、何らの帰責事由もない労働者の生活に直接かつ重大な影響を及ぼすのであるから、恣意的な整理解雇は是認できるものではなく、その場合の解雇権の行使が一定の制約を受けることはやむを得ない」との解釈示した上で、その有効性について、判断基準である4要素に従って、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の妥当性という観点から本件解雇の有効性を判断しました。
1.人員削減の必要性について
人員削減の必要性については、被告の業績推移から原告らが余剰人員になることが明らかであるため、人員整理の必要性があると認定しました。具体的には、平成7年以降被告全体の売上が年々下落していたことから丁寧に認定し、平成9年の時点で博多営業所の閉鎖が免れないものとなり、さらに平成11年7月以後は更なる受注減少が見込まれるとし、このような中で本件請負契約の終了により本件業務がなくなることになったのであるから、原告らが余剰な人員となることは明らかであるとしました。加えて、現に平成11年の売上推移に鑑み、吹田出張所の売上げがなくなる同年10月以降も原告らを雇用し続けた場合、赤字経営となることは明らかであるとも言及し、被告に人員整理の必要があったと認めました。
2.解雇回避努力について
本件整理解雇の選択に至るまで、被告が採ってきた経営改善策を具体的に認定した上で、被告としては解雇を回避するためになすべきことはほとんど行ってきているというべきと認定しました。 裁判所が認定した被告の経営改善策は以下のとおりです。
- ①従業員の新規採用の停止
- ②既存従業員に対する退職勧奨
- ③役員の報酬減額、辞任
以上の経営改善策に加え、本社従業員に残業もなく、残業調整を行う余地もなかったこと、及び原告らに対して退職金の支給や、退職までの5か月間1人当たり月3万円の特別手当の支給(代償措置)を行ったことにも言及した上で、被告が整理解雇という手段を回避するための努力を尽くしたものであると認定しました。
3.人選の合理性について
人選の合理性に関して、そもそも本件整理解雇は、JR西日本との請負契約の解除によって本件業務が被告から一気になくなってしまったことを受けて、本件業務に従事していた原告らを全員一律に解雇するというものであることから、その人選が恣意的なものではないと判断しました。 また、本社勤務の従業員との関係についても、前記のとおり、退職勧奨等の方策を採ってきたことから、これ以上、本社で人員削減を断行することが難しかったこと、そして、本社従業員として残った者たちは、いずれも有資格者や熟練工であるから被告の業務遂行に必要不可欠な人材であり、主として車両の誘導業務に従事してきた原告らに比べ代替性に乏しい人材であったことから、整理解雇の対象として吹田出張所の原告らを選んだことに合理性が認められると判断しました。
4.手続の相当性について
本件整理解雇に至る各種手続の経緯に言及した上で、本件解雇が手続的にも不当であったとは認められないとしました。 つまり、本件整理解雇手続として、被告は、JR西日本との請負契約の解除通知(契約更新は行わない旨の通知)を受けた直後に、原告らに対し、本件解雇に至る事情を説明した上で本件解雇を通告していたことを認定しました。なお、かかる説明の際、被告は従業員らからの質問にも答えた上で、解雇対象となっている従業員に対する今後の具体的な対応(退職金は規定どおりに支給する、未消化の有給休暇を買い上げる、解雇までの特別手当の支給等)についても説明していました。 また、その後、吹田出張所の従業員も所属する従業員分会からJR西日本に対して団体交渉が求められるなどしたものの、その際に原告ら及び分会が被告に対して、本件整理解雇に関する事情説明が不十分であるなどの主張をして、被告に対して改めて説明を求めたりしたことを認めるに足る証拠がなかったことに言及して、本件整理解雇は手続的に相当であったと認定しました。
第3.裁判例のポイント
本事例は、他の整理解雇事例と同じ4要素からその有効性について検討し、本件整理解雇は有効であると結論付けましたが、整理解雇対象となった原告らが余剰人員となることが必至であり、人員整理の必要性が極めて高かったという事情が重視された結果、本件整理解雇の有効性が肯定されたものと考えられます。 一方で、本事例は人員削減の必要性が高いことのみを以て本件整理解雇が有効であると肯定するわけではなく、会社が採った経営改善策等の解雇回避努力についても丁寧に認定しており、受注減少等で経営が悪化したことによって人員削減が必要となった場合、整理解雇に先立って、解雇回避努力として具体的にどのような方策をどのような順序で踏むべきかという点に関して使用者側の対応を検討する上で参考となります。前記のとおり、新規採用の停止、既存従業員に対する退職勧奨(任意の退職を募る)、役員に関するコストカットといったステップを踏んでいくことが適切かと思われます。 もっとも、本事例はあくまで、大口の取引先からの請負契約が期間満了により終了したことで無くなってしまう業務に従事していて、余剰人員となることが必須である従業員を対象とした整理解雇の事例であり、単に使用者側の経営上の必要性から特定部門を廃止し、これに伴って当該部門の従業員を解雇する場合は、解雇回避努力の一環として配置転換の可能性や、他の従業員を含めた人選の合理性が改めて問題となると考えられます。この点について参考となる裁判例として、シンガポール・デベロップメント銀行(本訴)事件(大阪地判平成12年6月23日(労判786号16頁)、ナショナル・ウエストミンスター銀行(三次仮処分)事件(東京地決平成12年1月21日(労判782号23頁)) などがありますので、適宜ご参照ください(なお、当該判例について、弊所作成の別記事において解説しておりますので、是非ご一読ください。)。