はじめに
使用者が労働者に明示しなければならない労働条件の内容等を定めた労働基準法施行規則第5条の一部を改正すること等を内容とする省令が、令和5年3月30日に公布・告示されました。この省令は、現在から約1年後の令和6年4月1日に施行されます。 本News Letterでは、今回の法改正のうち、労働条件明示に関する改正ポイントについて解説します。 今回の法改正の内容には、全ての労働契約の締結時に明示しなければならない労働条件が含まれており、労働者と雇用契約を締結する企業全てが対象となりえます。そこで、法改正への対応に向けたサポートにつきましては、施行開始前の期間に余裕をもって担当弁護士にご相談いただけますと幸いです。 なお、今回の法改正の内容には、労働条件明示に関する労働基準法施行規則の一部を改正するもののほかに、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の改正等も含まれていますが、本News Letterでは、法改正の影響が大きい労働条件明示に関する改正部分に焦点を当ててご説明いたします。
1 改正ポイントの概要
労働契約の締結・更新のタイミングにおいて、明示しなければならない労働条件明示事項が追加されました(労働基準法施行規則(以下「規則」といいます。)5条各号)。 追加された明示事項について、労働条件を明示しなければならないタイミングごとに区分けすると、以下のとおりです。 ・全ての労働契約の締結時及び有期労働契約の更新時 就業場所及び業務の変更の範囲(同条1項1号の3) ・有期労働契約の締結時及び更新時 更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容(同行1号の2) ・無期転換ルール に基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時 無期転換申込機会 無期転換後の労働条件 なお、法改正前から明示義務の課せられている労働条件明示事項について、ご質問・ご不安な点がある場合は、担当の弁護士までご相談ください。
2 改正の具体的内容
⑴ 就業場所及び業務の変更の範囲(同条1項1号の3)
当該事項について、全ての労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに明示する必要があります。 具体的には、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加えて、これらの事項の「変更の範囲」について明示する必要があります(下記【例1】参照)。 なお、この「変更の範囲」とは、将来の配置転換などによって変更がありうる就業場所及び業務内容の範囲を指すものとされています。
就業場所 | (雇入れ直後)・・・ (変更の範囲)・・・ |
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⑵ 更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容(同行1号の2)
有期労働契約の締結時及び有期労働契約更新のタイミングごとに、更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容について明示する必要があります(下記【例2】参照)。 なお、今回、上記法改正に伴って厚生労働大臣告示(平成15年厚生労働省告示第357号)も改正されたことにより、①最初の契約締結より後に更新上限を新たに設ける場合、②最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合には、更新上限を新設又は短縮する理由を有期契約労働者に更新上限の新設、短縮をする前のタイミングで予め説明する必要があります。
更新上限の有無 | (無・有(更新 回まで/通算契約期間 年まで)) |
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⑶ 無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件
無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)及び無期転換後の労働条件を明示する必要があります。 なお、初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も有期労働契約を更新する場合は、その後発生する更新のたびに、今回の改正による無期転換申込機会と無期転換後の労働条件を明示する必要があります(下記【例3】参照)。 また、今回、上記法改正とともに厚生労働大臣告示(平成15年厚生労働省告示第357号)が改正されたことにより、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の賃金等の労働条件を決定するに当たり、他の通常の労働者(正社員等のいわゆる正規型の労働者及び無期雇用フルタイム労働者)との就業実態に応じて、均衡を考慮することが努力義務(労働契約法3条2項参照)とされている事項(例:業務内容、責任の程度、異動の有無・範囲など)について、当該労働者に説明するよう努めなければならないとされています。
無期転換権について | 本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをしたときは、本契約期間の末日の翌日(●年●月●日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。この場合の本契約からの労働条件の変更の有無(無・有(別紙のとおり)) |
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3 法改正による実務への影響
今回の法改正に対する実務的な対応としては、労働条件通知書(雇用契約書を締結する際に、雇用契約書兼労働条件通知書として書面を交付することが一般的です。)の記載内容を加筆修正する必要があるかと思います。なお、労働条件明示義務(労働基準法第15条第1項)に違反した場合、従業員からの即時の労働契約の解除が可能になるだけでなく(同条第2項)、30万円以下の罰金に処せられる(同法第120条第1項第1号)可能性がありますので、対応に向けたサポートについてご相談いただくことをお勧めいたします。