1.解雇のルールと協調性に欠ける従業員を解雇した場合の考慮要素
(1)解雇に関する一般的なルール
まず、解雇とは、使用者の一方的な意思表示によって雇用契約を終了させることをいいます。解雇は、使用者が一方的に従業員の地位を奪うことになるため、法律による一定の規制があります。無期雇用の場合、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、解雇は無効とされています(労働契約法16条)。解雇の理由には、能力不足や業務命令違反など様々なものがありますが、過去の裁判例に照らしても、一般的に解雇のハードルは高いといえます。
(2)協調性の欠如を理由とした場合の有効性判断の考慮要素
協調性の欠如を理由とする解雇の有効性が争われた事例は多くあります。具体的には、反抗的な態度やコミュニケーションが取れない、自分のやり方に固執して会社の方針に従わないなどの行動が挙げられます。そのような理由で解雇した場合の裁判例で考慮された事情はおおよそ次のようなものになります。
ア 採用の経緯 どのような経緯で採用されたのかという事情は、当該従業員に求められている能力などとの関係で重要になります。一般的には、新卒一括採用の者より、中途採用の者の方が求められている能力が具体的かつ高水準であり、例えばチームリーダーになることを前提に中途採用されたにもかかわらず、協調性に欠けるとすれば、解雇の有効性を評価するうえで会社にとって有利な事情となります。 イ 試用期間か否か 試用期間満了時の本採用拒否の場合、通常の解雇よりも解雇の自由は広く認められると判断した判例があります(三菱樹脂事件、最大判昭和48年12月12日)(※1)。もっとも、そもそも試用期間であることについて争いになる場合も多くありますので、試用期間であれば、直ちに本採用拒否が有効であるというわけではありません。
(※1)社会保険労務士の資格を有し、主に経理、労務に関する業務に従事する予定で中途採用された試用期間中の従業員について、全従業員が参加する会議の場で、決算書が誤っている旨発言したことを理由に解雇した事案について、解雇を有効とした裁判例があります(東京高判平成28年8月3日(労判1145号21頁)。
ウ 使用者の会社規模や業種 会社規模が大きい場合、他の従業員がフォローすることで業務への支障を少なくすることや、特段協調性が求められることがない部署への配置転換などが可能といえます。その結果、解雇の有効性判断において不利な事情として考慮されます。一方、会社規模が大きくない場合には、一人の従業員に問題がある場合の影響が大きく、また配置転換などの解雇以外の対応も難しくなることから、解雇の有効性判断において有利な事情として考慮されます(※2)。
(※2)ミスや業務の遅れを度々生じさせていた従業員に対して繰り返し指導を行い、可能な範囲で配置転換や降格などを行ったものの改善されなかった事案について、従業員15名程度の小さな職場であったことなどに照らし解雇を有効と判断した裁判例があります(東京高判平成27年4月16日(労判1122号40頁)。
エ 当該従業員の職種や責任 当該従業員の職種が、特にコミュニケーション能力や協調性が求められる場合や、チームリーダーや管理職などの責任ある立場である場合においては、解雇の有効性判断において有利な事情として考慮されます(※3)。
(※3)新規顧客獲得のために、大手企業の役員クラスへの営業活動を行うことを期待して好待遇で中途採用された営業統括本部長について、営業先とのメールに社長らをCcで入れるとの指示があったにもかかわらずこれを怠り、実際に成果も挙げられていないなどを理由に解雇を有効と判断した裁判例があります(東京地判平成30年10月15日(労経速2363号49頁))。
オ 問題行動の内容とその結果 考慮要素の中でも、当然、問題行動の内容と結果が特に重要になります。問題行動の内容、原因(性格や人間関係など)、回数、期間などを考慮することになります。また、そのような問題行動の結果としてどのような支障、損害が生じているのかも重要です。例えば、他の従業員にしわ寄せがいった結果、残業時間が増加した、他の従業員が精神疾患になった、取引先からクレームが入ったなどが考慮されます。 カ 注意指導と解雇回避努力 上記のような問題行動に対し、使用者がどのような注意指導をしたか、それに対し当該従業員がどのような対応をしたかという事情も重要になります。注意指導を繰り返したにもかかわらず、長期間にわたり問題行動を繰り返した場合には、解雇が有効であるとの判断に近づきます。また、解雇を回避するために、適切な配置転換をしたことも、解雇が有効であるとの判断の考慮要素となります(※4)。
(※4)前掲東京高判平成27年4月16日においても、指導を繰り返していたことや配置転換をしていたことが、解雇の有効性判断において有利な事情として考慮されています。
キ まとめ 以上のような要素を考慮することから、数回の協調性に欠ける問題行動があったことをもって直ちに解雇するということは難しく、裁判において無効と判断される可能性があります(※5)。無効と判断された場合のリスクについては、「解雇無効に伴う種々のリスクについて」を参照してください。
(※5)実際に、前掲東京高判平成28年8月3日や前掲東京高判平成27年4月16日も第1審では解雇は無効と判断されていました。
2.協調性に欠ける従業員に対して会社が行うべき対応
(1) 当該従業員に対する適切な注意指導
上記のとおり、問題行動に対して適切な注意指導を行うということは、最終的に解雇に踏み切り紛争となった場合に重要な考慮要素となります。ここで重要なことは、使用者が、問題行動の内容や原因を考慮して、当該従業員が改善できるような注意指導をすることです。そして、そのような注意指導に対し、当該従業員から、具体的な改善方法を提出させるといったことも重要になってきます。また、このような注意指導を記録化することが、後々の紛争に備えるという意味で重要になってきます。
(2) 問題行動に関する資料の収集保管
その他、しわ寄せがいった他の従業員からクレームが出てきたことや、取引先からクレームが入ったといった事実がある場合には、それらの事実を記録化することが重要になります。