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2023/05/16

懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示は認められないとされた事例 東京地判平成2年7月27日(労経速1404号21頁)

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目次

1.事案の概要

 本件は、従業員を、下記の懲戒解雇事由で懲戒解雇したところ、懲戒解雇は無効、また懲戒解雇の意思表示には普通解雇(以下「普通解雇①」といいます。)の意思表示は含まれていないと判断された一方で、懲戒解雇の意思表示から約1年経過した時点で改めて普通解雇(以下「普通解雇②」といいます。)を上記懲戒解雇と同じ理由で行ったところ、有効と判断された事案です。


【懲戒解雇事由】

 ①住居及び通勤経路を偽り、平日はほとんど利用しない通勤経路を利用していると虚偽の申告をして、通勤費相当額の金員を騙取していたこと、②それに伴って通勤所要時間を過大申告して、一定時間(30分)の遅刻について「通勤困難に伴う特別措置・過渡措置」という形で始業時刻に30分遅れて出勤し、30分残業して割増賃金を得ていたこと、③住民登録していない住所に住んでいたことから警察の調査を受けて、その際に会社には内密にしてほしい旨告げたこと、④職場で同僚に対してにらみつける、隣の女子社員の書類がデスクからはみ出していたことを理由として当該女子社員の椅子を小突く、配布物を配り忘れた同僚の頭を小突くなど悪態をついていたこと、⑤英語の有資格であったことから、翻訳の仕事を任せたところ、稚拙な翻訳しかできないなど、仕事を1人でこなせるレベルでなく、上司のアドバイスを聞き入れず、別の業務を任せた際には他の従業員に仕事を押し付けるといった勤務態度であったことが理由とされています。


2.裁判所の判断の概要

 裁判所は、懲戒解雇の有効性判断にあたって、前記①~⑤の懲戒解雇事由のうち、そもそも③~⑤については、就業規則上の懲戒事由に該当しないと認定しました。また、①及び②は就業規則上の懲戒事由に該当すると認定したものの、次のとおり、懲戒解雇権の濫用であると判断しました。
 通勤経路の虚偽申告及びそれに伴う通勤手当相当額の騙取は長期間に及ぶもので、部長と面談した際にも自身の主張を繰り返すのみで一向に反省の態度がうかがえないとした一方で、そのような通勤経路や住所地の虚偽申告は、老父の世話をするためのものであったこと(老父の居住地近くにアパートを借りて、当該住所を会社へ申告していたが、実際は会社近くのアパートに住居を有し、そこから通勤していました。)、通勤手当の金額としては不相当な金額を受領しているものの、通勤定期代以上のアパート代を支払っていたといった事情や、勤続24年間の勤務期間中に処分歴がないことからすると懲戒解雇は重きに失し、客観的合理性を欠き、社会通念上相当性を欠くものとして無効と言わざるをえないと判断しました。
 また、会社側は上記懲戒解雇の意思表示には普通解雇する旨の意思表示も含まれているため、懲戒解雇が無効であるときは予備的に普通解雇(普通解雇①)である旨を主張しましたが、裁判所は、会社として懲戒処分についてのみ検討し、その結果として懲戒解雇が選択されたこと、懲戒解雇と普通解雇はその根拠となる就業規則上の条文も異なるといった理由から、懲戒解雇の意思表示がなされた際に同時に普通解雇の意思表示もなされた認めることはできないと判断しました。
 他方で、会社は上記懲戒解雇から約1年後に、改めて当該従業員に告げた普通解雇②については、上記懲戒解雇事由をもって、「当該従業員が勤労意欲に乏しく、執務成績も劣り、日常的に職場の同僚に不快感を与える行動を繰り返していたところ、通常の通勤経路を偽り通勤費相当額の金員等を騙取し、また、虚偽の申告をして、特例扱いを受けて出勤時間を遅らせ、かつ残業手当を受給していたなどの前期三の各事情を総合考慮すると、被告が原告を解雇に付して、その雇用関係を終了させたことが客観的合理性を欠き、社会通念上相当でないとは認められないから、右普通解雇は無効となるものではない」と判断しました。


3 裁判例のポイント

 本事例は、同一の懲戒解雇事由に基づき、懲戒解雇は無効と判断した一方で、普通解雇は有効と判断された事案ですが、懲戒解雇の意思表示の中に普通解雇の意思表示が含まれていると認めることはできないと判断した点も重要です。
 会社として従業員を懲戒解雇する場合には、会社から退職してもらいたいという会社の意思がありますが、裁判において、必ずしも懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が含まれるとは判断されません。
 そして、同一の懲戒解雇事由について、懲戒解雇としては無効であるものの普通解雇としては有効と判断されている点に鑑みると、従業員に解雇を言い渡す際に、懲戒解雇とすべきなのか普通解雇に留めるべきなのかについても慎重に判断する必要があることを示している裁判例だといえます。

中野 博喜(なかの ひろき)

本稿執筆者
中野 博喜(なかの ひろき)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 従業員の問題行為について、事実の調査とその事実の重大性を正確に把握したうえで、対応していくことが重要です。従業員がトラブルを起こした際に、会社としてどのように対応すべきか悩まれた際には、早めに弁護士に相談し、必要な資料の収集や調査にあたることをお勧めいたします。

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