1 本人の反省や謝罪を内容とする始末書の提出は強制できないこと
始末書には、①事実経過についての報告を内容とするものと、②これに加え反省や謝罪を内容とするものがあります。②の始末書の提出を強制することは、反省や謝罪を強制することになります。これは、労働者の良心の自由や意思決定の自由を侵害しかねないものです。反省や謝罪を内容とする始末書の不提出を理由に新たに科した懲戒処分を無効とした裁判例(※1)も存在します。 したがって、反省や謝罪を内容とする始末書の不提出を理由とした新たな懲戒処分は、無効となる可能性があるといえます。紛争予防の観点から、新たな懲戒処分を科すことは控えるべきでしょう。 なお、会社は、従業員の始末書の不提出について、その後の考課査定や配置昇進に関する裁量の中で考慮することができます。(※2)
※1 福知山信用金庫事件(大阪高判平13年12月25日労判824号36ページ) ※2 菅野和夫『労働法(第12版)』703ページ(弘文堂、2020)
2 事実経過についての報告を内容とする始末書の不提出は懲戒処分の対象とできること
事実経過についての報告にとどまる①の始末書は、業務命令として提出を求めることが可能ですから、この提出を拒絶することを業務命令違反として懲戒処分の対象とすることができます。ただし、処分内容が相当なものであるか別途検討する必要があります。 例えば、裁判例(※3)には、4回のけん責処分を受け、始末書提出を命じられた(どのような始末書の提出が命じられていたかは不明。)が提出しなかった労働者の解雇につき、従業員の態度に変化が認められず、就業規則上の解雇事由に該当し、解雇権の濫用には当たらないとして解雇は有効であると判断された事例が存在します。
※3 カジマ・リノベイト事件(東京高裁平成14年9月30日判決・労判849号129ページ)
3 始末書の作成にあたっては事実経過を詳細に記載させることが重要であること
始末書に反省や謝罪についての記載を求めることは、従業員の教育という観点からは重要といえるでしょう。しかし、訴訟という観点からは、このような記載をさせることにあまり重要な意味はありません。 重要な点は、どのような事実が存在したのかを記載させるという点です。非違行為の内容についての具体的な記載が始末書にされていれば、従業員がどのような行為をしたのかが明確となり、証拠として重要視されるでしょう。(※4) したがって、事実経過を詳細に記載させることを重視すべきです。
※4 企業人事労務研究会『企業労働法実務入門(改訂版)』254ページ(日本リーダーズ協会、2019)