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2021/09/15

団体交渉における資料開示、署名について

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Question

団体交渉について教えてください。
ア 労働組合から決算書などの経営資料の開示を求められています。応じなくても問題ありませんか。
イ 団体交渉後に、労働組合から「この場で議事録に署名してください」と言われました。署名しても問題ありませんか。

Answer

ア 常に開示しなければならないわけではありませんが、誠実交渉義務との関係で、開示の要否及び範囲等について検討することが必要です。
イ 議事録であっても、その場で署名するか否かは慎重に判断することが必要です。もっとも、その場での署名押印は原則として行わない方が良いと考えます。

ポイント

  • ・労働組合からの資料開示の要求に応じるかは誠実交渉義務との関係で問題となる
  • ・議事録であっても労使間の約束事(労働協約)となるリスクがある
  • ・労働協約のうち、労働条件その他の労働者の待遇に関するものを定めた部分は、就業規則及び個別の労働契約に優先する効力がある

目次

1.団体交渉で労働組合から経営資料などの開示を求められたら

 団体交渉では、交渉事項に関連するとの理由で、労働組合から会社の経営状態がわかる資料として決算書等を開示せよと要求されることがあります。会社としては、重要な経営資料であるため開示したくないとお考えになることもあると思いますが、対応する際には慎重な判断が必要です。

(1) 労働組合からの資料開示の要求に応じる義務はあるか

 労働組合からの資料開示の要求に応じるかに関しては、誠実交渉義務が関係してきます。労働組合法は、使用者による正当な理由のない団体交渉拒否を不当労働行為として禁止していますが(労働組合法7条2号)、その一環として、使用者は誠実に団体交渉に応じなければならないとされています。これを誠実交渉義務と言います。そして、使用者の誠実交渉義務の内容について裁判例では、「使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、……論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務がある。」(東京地裁平成元年9月22日判決・労判548号64頁)と判断しています。そこで、労働組合からの資料開示の要求に対しても、誠実交渉義務に反しないように対応する必要があります。
 設問の決算書について検討しますと、交渉事項の回答に決算書に記載されている情報が必要であれば、これを開示することが必要になる場合もあります。もっとも、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書等のすべての決算書の情報開示が不可欠となる場合は稀であり、売上や利益の数値を示すことで足りる場合もあります。労働組合から経営資料の開示を求められた場合には、労働組合が必要としている情報は何なのかを正確に把握して、交渉事項との関係で開示する資料をその都度検討することが必要です。

(2) 労働組合からの資料開示の要求を拒否したら問題となるか

 資料開示の拒否が誠実交渉義務に反するとされた場合には、不当労働行為に該当します。不当労働行為とは、労働組合法で禁止されている、会社として行ってはならないとされている行為です(労働組合法7条各号)。実際に、労働組合の賃上げ、一時金要求に関わる団体交渉において、一貫して経営実態に関する具体的資料等を提示することなく要求を拒否し続けたことは、誠実交渉義務違反として不当労働行為を構成すると判断した判例があります(最高裁平成6年6月13日判決・労判656号15頁)。
 なお、不当労働行為があった場合(もしくは不当労働行為があったと組合が考えた場合)、組合又は組合員は、労働委員会に救済を求めることができます。不当労働行為について詳しくは、「企業内組合が結成された場合の対応について」の記事をご覧いただければと思います。

2.団体交渉後に議事録への署名を求められたら

 次に、団体交渉後に議事録への署名を求められた場合の対応についてですが、その場で署名するか否かは慎重に判断することが必要です。議事録というタイトルの書面であっても、労使間の合意内容になる可能性があるためです。

(1) その場で議事録に署名することで生じ得る問題について

 会社と労働組合が団体交渉を行い一定の合意に達した場合、労働協約が締結されることがあります。労働協約とは、労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する協約であって、書面で作成され、両当事者が署名し又は記名押印したものをいいます(労働組合法14条)。労働協約の書面のタイトルに決まりはないため、覚書や議事録といったタイトルであっても、書面の実体が労働協約であれば、労働協約として認められます。そして、労働協約として認められれば、その書面の内容は労使間の合意内容となり会社はこれに拘束されることになります。
 また、議事録には合意に至っていないその場での意見等が記載されていることがあります。その場で作成した議事録であれば、団体交渉の場で述べた意見が正確に記載されていない可能性が高く、このような議事録に署名押印すると、後になってその議事録と異なる内容の発言をした場合に、「以前、会社は○○と発言していた」、「会社は、議事録を確認したうえで署名押印をしているのだから、議事録と異なる内容の発言は不誠実だ」などと指摘され、自由な発言が阻害されるリスクもあります。
 よって、議事録というタイトルであっても労働協約となる可能性があるため、原則としてその場での署名は避け、書面の内容を検討してから署名することが必要です。

(2) 労働協約の効力

 労働協約は労使間の合意文書であり、労働協約のうち、「労働条件その他の労働者の待遇に関する」ものを定めた部分は、就業規則及び個別の労働契約に優先する効力があります(労働組合法16条)。また、ひとつの事業場に常時使用される同種労働者の4分の3以上の数の労働者が同じ労働協約の適用を受けるに至ったときは、他の労働者(すなわち組合員以外の者)に対しても、労働協約の効力が及びます(労働組合法17条)。このように、労働協約は重要な書面ですので、署名するか否かは慎重に判断することが必要です。

紺野 夏海(こんの なつみ)

本稿執筆者
紺野 夏海(こんの なつみ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 不当労働行為が争われると紛争が長期化する可能性が高くなってしまうため、労働組合への対応においては不当労働行為を行わないように気を配る必要があります。労働組合からの要求にどう対応してよいかお困りごとがありましたら、一度弁護士までご相談ください。

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