1.支配介入とは
支配介入とは、使用者が労働組合の結成または運営に対して干渉行為を行うことです(労働組合法7条3号)。支配介入は不当労働行為のひとつであり、不当労働行為は労働組合の団体交渉権や争議権などの権利の実現のために、使用者としてしてはいけない行為として労働組合法により禁止されている行為です。
以下では、どのような行為が支配介入に該当するのかを見ていきます。
2.組合員の上司から組合から脱退するよう働きかけることは不当労働行為(支配介入)に当たるか
使用者すなわち法人の代表者や取締役等が、組合員に対し組合から脱退するよう働きかけることは、労働組合の運営に対しての干渉行為となりますので、不当労働行為である支配介入に当たります。では、働きかけを行う者がいわゆる管理職でなくとも使用者の行為となり、支配介入に当たるのでしょうか。また、その上司が個人的な立場で行った行為も支配介入に当たるのでしょうか。
(1) 上司が管理職でなくとも不当労働行為(支配介入)となるか
結論としては、働きかけをする上司がいわゆる管理職でなくとも、「使用者の意を体して」行った行為と評価されるときは支配介入になり得ます。
職制上の地位が科長であった者の行為が不当労働行為となるかが問題となった事例では、「使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者が使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行った場合には、使用者との間で具体的な意思の連絡がなくとも、当該支配介入をもって使用者の不当労働行為と評価することができる」と判示しています(最高裁第二小法廷判決平成18年12月8日・民集222号585頁)。
そのため、働きかけを行う上司が部長などの管理職でなくとも、部長を補佐する立場にあったり、労務管理上の権限の一部を担っている立場にある場合には、使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にあり、会社の意向に沿って行った上司としての立場からの言動と評価され、支配介入に当たり得るため、注意が必要です。
(2) 組合員の上司が個人的な立場で働きかけることは不当労働行為(支配介入)となるか
上司と部下の個人的な関係からの言動である(と評価される)場合には不当労働行為とはなりません。上記最高裁判例も、「相手方との個人的な関係からの発言であることが明らかであるなどの特段の事情」がある場合には不当労働行為とは評価されない旨、判示しています。もっとも、上司が個人的な立場で組合からの脱退を働きかけた場合であっても、当該上司の職務内容や部下との関係性によっては不当労働行為と評価され得るため注意が必要です。
3.労働組合に対し、社長の意見を表明することは不当労働行為(支配介入)に当たるか
団体交渉が行われている場合、労働組合に対し、使用者として(社長として)意見を言いたいと思われることがあるかもしれません。しかし、憲法28条が保障する団結権との兼ね合いから、使用者の言論は一定の範囲で制約を受けるため、注意が必要です。
(1) 社長の意見表明が不当労働行為(支配介入)に当たらない場合
社長として、単なる意見表明を行う場合には、不当労働行為と評価されるリスクは低いものと考えられます。例えば、ストライキの回避要請や賞与相場の呈示に止まる場合です。会社が経営危機打開策のため、従業員に対する説明会のなかで、「ストをやれば会社はつぶれる」などと発言しつつ組合のストライキの回避を訴えたことが問題となった事例では、説明内容に一部適切でないものがみられるものの、全体の趣旨は経営危機の現況を明らかにし、組合のスト回避を率直に訴えたものと認められるとし、不当労働行為に当たらないとされています(中労委昭和57年6月2日・命令集71集636頁)。
(2) 社長の意見表明が不当労働行為(支配介入)に当たる場合
一方、使用者の意見表明が労働組合の結成や運営に対する支配介入にわたる場合は不当労働行為となります。団体交渉が継続している中で出した社長名の声明文が支配介入に当たるとされた事例があり、ここでは「組合に対する使用者の言論が不当労働行為に該当するかどうかは、言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響などを総合して判断し、当該言論が組合員に対し威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に現実に影響を及ぼした場合はもちろん、一般的に影響を及ぼす可能性のある場合……は支配介入となるというべき」と判示されています(最高裁判決昭和57年9月10日・労経速1134号5頁)。
このように、労働組合に対する使用者の意見表明は、その内容や時期によっては支配介入の不当労働行為になり得ますので、慎重に行うべきです。