1.ユニオン・ショップ協定
(1) ユニオン・ショップ協定とは
ユニオン・ショップ協定(以下では「ユ・シ協定」といいます。)とは、労働組合が組織力の強化を目的として使用者との間で締結する労働協約であり、当該組合員でない者(あるいは組合員でなくなった者)を解雇することを使用者に義務付ける内容の協定をいいます。そして、このユ・シ協定を有効に締結できる労働組合は、当該事業場の同種の労働者の過半数を組織していなければならないと考えられています(労働組合法7条1号ただし書参照)。
(2) ユニオン・ショップ協定の効力
このような協定の効力について、判例・裁判例では次のとおりの判断を行っています。
まず、他の組合に加入する者との関係においては、他の組合に加入する者の組合選択の自由(いわゆる積極的団結権をいいます。)を保障する必要があるため、ユニオン・ショップ協定の効力は、当該他の組合加入者には及ばない(解雇要求はできない)と判断されています。
対して、組合に加入しない労働者や組合から脱退又は除名された組合員(以下では「非組合員」といいます。)との関係においては、組合に加入しない権利(いわゆる消極的団結権といいます。)の保護に関して議論はありますが、組合からの解雇要求の時点までに他組合に加入等していない労働者や元組合員について、ユ・シ協定に基づく解雇(以下では「ユ・シ解雇」といいます。)を有効とする裁判例がみられます。
これとは逆に、組合から脱退又は除名された者でも、別組合に加入又は新たな組合を組織した場合には、ユ・シ協定に基づく解雇の効力を否定するのが判例の立場と言えます。
したがって、一般的には、ユ・シ協定の効力を他の組合員に及ぼすことはできないものの、別組合に加入又は新たな組合を組織しない非組合員についてはユ・シ協定の効力を及ぼすことができると考えられています。
2.ユニオン・ショップ協定に基づく解雇の効力
(1) ユニオン・ショップ協定に基づく解雇の有効性について
上述したとおり、ユ・シ協定は非組合員に対し効力を及ぼすことができると考えられていますが、このような解雇が有効かという点も別途問題となります。
この点判例は、ユ・シ協定が組合の組織力強化に有用であることや、労働者は組合に加入又は新たに組合を組織することにより解雇を免れることができること、および使用者は協定上の義務に則り解雇をするのであって恣意的な解雇とはいえないことなどを理由に、ユ・シ解雇を有効と判断しています。
(2) 解雇が無効と判断されるケースについて
他方で、ユ・シ解雇であっても、場合によっては解雇が無効と判断されるケースも考えられます。その一例が、冒頭質問に対する回答でも触れた、組合の除名処分が無効であった場合におけるユ・シ解雇の事例です。
ユ・シ協定は、労働組合と使用者間で使用者の解雇義務を設定する協定にすぎず、その協定が有効であっても、協定に基づく解雇は、理論的には解雇権濫用法理(労働契約法16条)により有効性が判断されることになります。
この点、有効なユ・シ協定に基づき、有効な除名処分により組合員じゃなくなった者を解雇する場合は、恣意的な解雇とはいえないため解雇権の濫用にあたらないと学説・裁判例では判断されています。
これに対して、組合の除名処分が無効であったケースでは、そもそも当該労働者は組合員としての地位を失っておらず、使用者にユ・シ協定に基づく解雇義務は発生しないのであるから、当該解雇は無効と判例で判断されています。
除名処分の無効は専ら組合側に責任があり、除名が有効であることを信頼して解雇した使用者にその責任を負担させるべきでないといった議論もありますが、使用者側としては、解雇が無効となるリスクに留意し、組合の除名処分の有効性に疑義がある場合には、除名理由について組合に問い合わせるなどの対応をとることが、このようなリスクの軽減につながると考えます。
なお、組合から脱退又は除名された者であっても、別組合に加入しあるいは新たな組合を組織したケースにおいては、ユ・シ協定に基づく解雇を無効と判断した判例があることは前述したとおりです。
3.まとめ
以上に述べたことをまとめますと、ユ・シ協定は他の組合を組織する者を除く労働者に効力を及ぼすことができますが、除名処分が無効である場合など組合員がその地位を消失していない場合にしたユ・シ解雇は無効と判断されるリスクがあります。
使用者としては、このようなリスクに留意したうえでユ・シ協定締結の判断を行うこと、ユ・シ協定に基づき解雇を行う場合には漫然と解雇を行うことはせず、組合員の地位消滅について調査を行うことが肝要といえます。
【参考文献】
菅野和夫「労働法〔第12版〕」(2020年、848頁~853頁)
河本毅「裁判例にみる解雇法理」(2015年、1359頁~1365頁)