1.内定の法的性質
判例(※1)は、採用内定の法的性質について、解約権留保付労働契約であると考えています。つまり、採用内定によって労働契約が成立するが、採用内定通知書や誓約書に記載されている採用内定取消事由が生じた場合には契約を解約する権利が会社に残されているという状態を意味します。 なお、採用内定通知を行ったが、入社に向けた正式手続を行っていないという状態を採用内々定といい、この段階では、労働契約の成立は認められません。ただし、採用内々定か採用内定かという判断は、形式ではなく実態、すなわち、必要書類の提出や研修の実施状況等の個別具体的な事情に基づき判断されますので、実際には具体的な事案ごとにどの段階に進んでいるか検討する必要があります。
2.内定取消の可否
(1) 判例の判断枠組み
判例(※2)は、採用内定取消が認められるのは、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」としています。 具体的には、採用内定取消事由があると発覚した場合であっても、その程度が重大なもので、それによって従業員としての適格や信頼が損なわれるようなものであるといった限定的な場面でのみ採用内定取消は有効となります。
(※1)大日本印刷事件(最高裁判所昭和54年7月20日第二小法廷判決・民集33巻5号582頁) (※2)前掲大日本印刷事件
(2) 具体的な事案における裁判所の判断について
過去の裁判例では、内定後、当該内定者が違法行為により逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したという事例(※3)で、そのような者を雇用することは相当でなく、会社が当該内定者を従業員としての適格性を欠くと判断し、内定を取り消したことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当であるとして内定取消を有効であると判断しています。 他方、内定者について、グルーミー(=陰気)な印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかったので内定を取り消したという事案(※4)では、グルーミーな印象であることは当初から分かっていたことであり、会社は、その段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性を判断することができたであるから内定取消は、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当とは認められないとして内定取消を無効と判断しています。 これらの事例からも、内定取消の理由となった事実が採用内定を出す前に知り得た事実なのか、その事実について内定者が従業員としての適格性を欠くといえる程問題のある事実だったのかという点がポイントになることがお分かりいただけるかと思います。 なお、会社の業績悪化等、経営上の理由により内定取消を行う場合には、整理解雇の場合と同様の基準によりその有効性が判断された事例(※5)が存在します。具体的には、①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇することの必要性、③被解雇者選定の合理性、④手続の妥当性という4つの要素を総合考慮の上、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当といえるかどうかを判断されました。
3.質問のケースに対する回答
内定者が学生時代にどのようなアルバイトをしていたかは、採用面接時に応募者である学生からアルバイトに関する話を聞いたり、エントリーシートにアルバイトについての記入欄を設けて記入を求めることで知ることができます。したがって、応募者のアルバイト事情については「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」というのは難しいと考えられます。 また、当該応募者が採用面接時にアルバイトに関する話をすることを拒んだ場合には、その他の事情から会社のイメージに合うか判断することも不可能ではないと考えられます。会社が一度内定を出している以上、会社は、当該内定者が会社のイメージに合うと判断していると考えられるため、後日、判明したアルバイト内容のみをもって従業員としての適格や信頼を大きく損なったとして、「これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当」と認められることは難しいと考えられます。 したがって、質問のケースにおいて、内定取消が認められるのは難しいでしょう。
(※3)大日本印刷事件(最高裁判所昭和54年7月20日第二小法廷判決・民集33巻5号582頁) (※4)前掲大日本印刷事件 (※5)前掲大日本印刷事件