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2022/09/05

即戦力として高度の能力を有することを前提に採用した者の解雇

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Question

 当社では,ある部門の本部長職を担う人材を必要としていたところ,当社が期待するキャリアを有する者からの採用応募があったため,その者に特段の能力を期待して,当部門の本部長としての職務内容を前提とした労働契約を締結し中途採用しました。
 しかし,実際に採用してみると,その者は当社が期待した本部長職としての適格性を欠いており,能力不足も著しいと判断したため,解雇したいと考えています。
 このような場合における解雇も一般的な従業員に対する解雇と同じ規制に服するのでしょうか。また,解雇に踏み切る前に配置転換等の解雇回避措置を講じなければならないのでしょうか。

Answer

 職種や地位を特定して雇用された労働者である場合,労働契約の内容となる能力や適正を欠くことを理由としてなされる解雇は,裁判例上,比較的有効と認められやすい傾向にあります。職種や地位を特定した労働契約である場合,当該職種や地位に相当する能力や適正がなければ契約の不履行といえるためです。
 なお,裁判例では,特定された職種や地位より下位の職種等への配置換えを必ずしも必要としない旨判断しているものがあります。

ポイント

  • ・職種や地位を特定した労働契約では,能力や適正を欠くことを理由とする解雇が比較的認められやすい。
  • ・特定された職種や地位より下位の職種等への配置転換は必ずしも必要とまでいえない。
  • ・職種や地位が特定された労働契約というためには,契約時点でその旨合意が必要。

目次

1.労働契約において職種や地位を特定した中途採用者に対する解雇について

 労働者の解雇は,労働者の生活の基盤を喪失させるものである以上,その有効性は厳格に判断されます(労働契約法第16条参照)。一方で,職種や地位を特定して雇用された労働者(中途採用者など)である場合,労働契約の内容となっている能力や適正を欠くことを理由とした解雇は,裁判例上,比較的認められやすい傾向にあるといえます。

2.裁判例

(1)解雇を有効とした裁判例

 職種や地位を特定して雇用された労働者で合意された能力や適正を欠くことを理由にした解雇のうち,解雇を有効とした裁判例を紹介します。
 フォード自動車事件・東京高判昭和59年3月30日労判437号41頁では,人事本部長という地位を特定し,特段の能力を期待して採用された労働者であったが,自らの仕事を部下に任せきりにし,その態度を一向に改めることもなく,人事本部長としての業務能率が極めて悪く,引き続き勤務することが不適当であるとして解雇を有効と判断しました。
 なお,本判決は,職種や地位を特定した労働契約と認められる場合,特定された職種や地位より下位の職種等への配置換えをしなければならないものでないと判示しています。

(2)解雇を無効とした裁判例

 一方で,職種や地位を特定してなされた労働契約であることを理由に,その能力や適正を欠くとしてなされた解雇であっても,職種や地位の特定の程度が問題となることがあります。たとえば,ブルームバーグ・エル・ピー事件・東京高判平成25年4月24日労判1074号75頁は,労働契約上求められている職務能力について,採用選考や試用期間中に格別の審査や指導等を行っておらず,本採用後の指示・指導の内容から見ても,職種や地位を特定してなされた労働契約であるとは認められないとして,結論として解雇を無効と判断しました。
 すなわち,職種や地位を特定してなされた労働契約であるというためには,労働契約の締結時点で特定の職種や地位を前提とした能力を有する契約であることを明示してそれが合意されなければいけません。

3.特定の職種や地位を前提とした労働契約を締結する場合の注意点

 以上に見てきたとおり,職種や地位を特定してその能力や適正を有することを前提に合意された労働契約では,裁判例上,右職種等を基準とした能力や適正を欠くことを理由とする解雇は比較的認められやすい傾向にあるといえます。
 もっとも,当該労働契約が職種や地位を特定してなされたものであるというためには,労働契約締結の時点でそのような合意がされることが必要です。たとえば,求人票に特殊な技能や資格が求められることを記載したり,採用面接の際に技能・資格を有することを確認し,労働者がこれを保証する旨回答したりといった事情が考えられます。
 このような職種や地位の特定にかかる事情がないにもかかわらず,職種や地位を特定してなされた労働契約であることを理由に解雇に踏み切ってしまうことには大きなリスクを伴います。

田畑 優介(たばた ゆうすけ)

本稿執筆者
田畑 優介(たばた ゆうすけ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 ここまで述べたとおり,通常,解雇は最終手段であり使用者側に解雇回避措置(配置転換等)を尽くすことが求められ,これが尽くされていないと判断された場合には解雇が無効であると判断されることが多いです。一方で,職種や地位を特定した労働契約である場合,労働契約の内容が当該能力や適正を有することが前提であるため,これを欠く場合の解雇は,裁判例上,有効と認められやすいといえます。
 もっとも,そもそも職種や地位を特定した労働契約といえるのか,また,労働者の適正の有無について十分に検討をしたのかといった論点は残ります。
 職種や地位を特定した労働契約であると考えている場合であっても,解雇に踏み切ってしまう前に,法律の専門家である弁護士に予め相談することをお勧めいたします。

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