1.1年単位の変形労働時間制とは
(1)変形労働時間制について
変形労働時間制とは、ある特定の期間内にかかる所定労働時間を平均して法定労働時間数内にすることで、1週、1日ごとの法定労働時間を超えて労働者を労働させることを可能にする制度です。そして1年単位の変形労働時間制とは、その特定の期間を1年間とした変形労働時間制のことを言います。 1年単位の変形労働時間制を採用した場合、法定労働時間である1日8時間、週40時間を超えて労働時間とすることができます(労働基準法32条の4)が、上限規制として、1日10時間、週52時間(なお労働時間が48時間を超える週が連続する場合の週数は原則3以下としなければならない)、年間280日(労働日数)という上限規制がありますので、何時間・何日間でも設定できるというわけではない点に注意が必要です。
(2) 変形労働時間制を導入する場合の手続きについて
まず、変形労働時間制を労働契約上有効にするために、就業規則又は労働協約において労使協定において定めたものと同様の事項を規定する必要があります。また、労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出をする必要があります(労働基準法32条の4第4項、32条の2第2項、労働基準法施行規則12条の4)。
(3)労使協定により締結すべき5つの事項
参考までに、労使協定により締結すべき事項として次の5つの項目が挙げられます。
- ①対象労働者の範囲
- ②対象期間とその起算日
- ③対象期間中の特に業務が繁忙な期間(特定期間)
- ④対象期間における所定労働日及び所定労働日各日の所定労働時間(始業、就業時刻及び休憩時間)
- ⑤有効期間
なお、これらの事項について個々に注意すべき点があります(例えば、①では妊産婦が申し出た際にはこれを対象労働者にできないことや、④では休日については最低1週に1日を確保しなければならないなど)。
2.時間外労働に係る割増賃金の計算方法について
変形労働時間制において時間外労働となる時間は、以下の3つのとおりです。 ①1日については、8時間を超える所定労働時間を定めた日は、その所定労働時間を超えて労働させた時間、所定労働時間が8時間を超えない労働時間を定めた日は、8時間を超えて労働させた時間が時間外労働となります。 ②1週については、40時間を超える所定時間を定めた週はその所定時間を超えて労働させた時間、所定労働時間が40時間を超えない時間を定めた場合には、週40時間を超えて労働させた時間が時間外労働となります(①の時間外労働時間を除く。)。 ③変形期間の全期間については、単位期間の総労働時間のうち同期間の法定労働時間の総枠を超える労働時間が時間外労働となります(①、②の時間外労働時間を除く。)(平成6年1月4日基発1号)。 時間外労働時間の割増率については、通常の労働時間制と同様に、月60時間以内が2割5分、月60時間を超えた場合が5割増しとなります(労働基準法37条1項)。なお、時間外労働についても上限規制があり、1年単位の変形労働時間制の場合には1か月について42時間、1年について320時間となっています(労働基準法36条4項かっこ書き)。
3.振替休日の可否について
1年単位の変形労働時間制における振替休日の可否について、法律上の規定はありませんが、通達(以下、平成6年5月31日基発330号、平成9年3月28日基発210号、平成2年3月31日基発168号の記載内容による。)では以下のとおりの考え方が示されています。 まず、1年間の変形労働時間制を採用する趣旨について、通達では「一年単位の変形労働時間制は、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することがないことを前提とした制度であるので、通常の業務の繁閑等を理由として休日振替が通常行われるような場合は、一年単位の変形労働時間制を採用できない。」とされており、1年間の変形労働時間制を採用する場合には、原則として休日振替は認められないとされています。 もっとも、同通達上では、同様に「なお、一年単位の変形労働時間制を採用した場合において、労働日の特定時には予期しない事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行われなければならなくなることも考えられるが、そのような休日の振替までも認めない趣旨ではなく」とされており、例外的な場合には、休日振替も認められると考えられています。 そして、その具体的な条件として、「就業規則において休日の振替を必要とする場合に休日の振替をすることができる旨の規定を設け」られていること、「これによって休日を振り替える前にあらかじめ振り替えるべき日を特定して振り替えるものであること」、さらに「就業規則等において、できる限り、休日振替の具体的事由と振り替えるべき日を規定することすることが望ましい」とされています。 また、「対象期間(特定期間を除く。)においては連続労働日数が六日以内となること」、「特定期間においては一週間に一日の休日が確保できる範囲内であること」も条件とされています。