1.事案の概要
本件は、女子大学を経営する学校法人である被告(以下「Y」といいます。)の男性教授である原告(以下「X」といいます。)が、女性職員や女子生徒に対して性的な発言などのセクシュアル・ハラスメントなどをしたことを懲戒事由として平成27年8月2日に懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)されたことから、Yに対し、本件懲戒解雇は懲戒事由の事実を欠き又は懲戒権を濫用したものとして無効であるなどと主張して、本件懲戒解雇の有効性が争われた事案です。 本件懲戒解雇の有効性に関する争点としては、Yは、懲戒事由として、Xにおいて11個の懲戒事由に該当する行為があった旨を主張しているところ、Yの主張する懲戒事由に該当するセクシュアル・ハラスメントなどの行為があったと認められるかどうか、及びその懲戒解雇について、その処分の相当性が認められるかどうかが争点となりました。 本判決の原審(東京地裁平成29年10月20日判決)では、Yの主張する11個の懲戒事由のうち、Xが行ったと認められるものは1個の懲戒事由に該当する行為のみであり、その他懲戒事由に該当する行為は認められないことを前提に、当該懲戒事由が悪質なものといえず、懲戒解雇は重きに失し、処分の相当性が認められないとして、懲戒解雇を無効と判断されていました。
2.本判決の判断の概要
控訴審である本判決では、原審では実施されなかったXからセクシュアル・ハラスメントなどの被害を受け、苦情を申し立てたYの職員であった女性の証人尋問が実施された結果、Yが主張する11個の懲戒事由に該当するセクシュアル・ハラスメント行為について、いずれもXによって行われたことを認めました。 そして、上記のとおり、Xが11個の懲戒事由に該当する行為をそれぞれ行ったことを認定した上で、その懲戒事由が多数に及び、その内容もYの女子大学としての信用・評判を著しく低下させるものが複数含まれているほか、懲戒解雇時においては、Xに十分な反省が見られず、懲戒事由の多くに常習性が見られるものであり、Xによる同種行為の再発のリスクも非常に高かったこと、Xが学科長という学科のトップの地位にあったことから通常の職員よりも行為に対する責任が重いことなどを理由に、懲戒解雇について客観的に合理的な理由があり社会通念上の相当性も認められるとして、懲戒解雇は有効と判断しました。
3.裁判例のポイント
本裁判例は、主にセクシュアル・ハラスメント行為などについて、その行為の有無(事実認定)及び懲戒解雇という処分の相当性について争われた事案となります。 セクシュアル・ハラスメント行為などの有無に関する事実認定について、第1審では、Yが主張した11個の懲戒事由のうち、1個の懲戒事由のみ認定された一方、控訴審である本判決では、11個の懲戒事由が全て認定されています。この事実認定の相違については、特にセクハラ行為などを受け、Yに苦情申立てを行った者(当時の女性職員)の証言の有無によって影響があったとされています。すなわち、原審では、当該女性職員であった者の証人尋問が実施されなかったのに対して、控訴審では証人尋問が実施されたことで、その証言によって、Xの行為の事実が認定された結果、事実認定が分かれたものと考えられます。そのため、セクシャル・ハラスメント行為をはじめとするハラスメント行為により、その行為者(加害者)を処分するにあたっては、客観的な資料の収集はもとより、被害者とされる者や苦情・被害申告の申立てを行った者に対して、裁判外の事実聴取に加えて、裁判における証人尋問などにも協力することを求め、法廷での証言の実現の可否まで見据える必要があるものと考えられます。 また、本判決は、いずれの懲戒事由も認めた上で、その処分の相当性につき、その懲戒事由に該当する行為のみならず、Yの信用に及ぼすリスク、Xの反省の程度、懲戒処分時における再発リスク、行為時のXの地位などを総合考慮して、懲戒解雇処分を有効と判断しており、その懲戒処分の内容を判断する際には、単に行為の悪質性ではなく、その他考慮要素にも留意が必要といえます。