1 会社による労働時間管理義務について
(1)法令や判例は、会社に時間管理義務を課していること
判例(※1)は、「使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができる」時間が労働時間にあたるとしています。
そして、会社は、法律上、労働時間の把握義務を負っています(労働安全衛生法66条の8の3)。また、会社が適切な労働時間管理を怠ったため、従業員が残業時間の立証ができなかった場合、概括的に残業時間を推認し、従業員の割増賃金請求を認めたという裁判例も存在します。
つまり、会社が適切な労働時間管理を怠ると、会社に不利な判断がされてしまう可能性が高いといえます。
(2)労働時間の管理に関するガイドラインは、自己申告制を例外としていること
労働時間の管理については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)(※2)が定められており、企業が講ずべき措置が示されています。
このガイドラインは、①使用者が、自ら現認することにより確認して記録する方法及び②タイムカードや、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録する方法で労働時間の確認及び記録をすべきであるとしており、③自己申告制は、これらの方法によることができない例外的な方法としています。
また、自己申告制のデメリットとして、労働時間の管理が適切に行われていない場合、業務処理上必要のない居残り残業を誘発するおそれがあります。
※1 三菱重工長崎造船所事件(最高裁判所平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801ページ)
※2 厚生労働省ホームページ
2 残業の事前許可制の導入について
(1)制度の導入により不要な居残り残業を防止できること
上記の問題解決のため、事前に会社の定める手続に従って残業許可を取得しない場合には残業を認めない(割増賃金等を支給しない)という事前許可制に変更するという対策が考えられます。具体的には、残業を行う社員が、上司に対して残業の要否及び見込み終了時間を記載した残業申請書を就業時間内に提出し、上司が就業時間内に残業命令を出すといった制度です。これを就業規則に定めることにより、無許可での残業は、労働契約に基づくものではないので割増賃金を支払わないという立場を明らかにすることができます。
特に、残業の事前許可制の下では、上司が残業の要否を事前にチェックするため、残業代稼ぎを目的とした居残り残業や、自発的なサービス残業を未然に防ぐことが期待できます。
(2)制度導入の際の注意点
しかし、申請手続なしに行われる残業を会社が黙認している等、制度を適切に運用せず、むしろ残業代抑制のために悪用しているような場合、黙示の残業命令があり、使用者の指揮命令下に置かれていたと認められ、割増賃金請求が認められる可能性があります。また、所定労働時間内で終了させることが困難な量の業務を行わせていた場合に黙示の残業命令があり、使用者の指揮命令下にあったと認められ、割増賃金請求が認められた裁判例(※3)も存在します。
申請手続なく残業が行われていることが発覚した場合、残業の中止を命じなければなりません。口頭で注意するだけでなく、書面により明確に残業を禁止し、注意に従わない場合には懲戒処分も検討する必要があります。
※3 クロスインデックス事件(東京地裁平成30年3月28日判決・労経速2357号14ページ)