1 年次有給休暇の取得義務とは
働き方改革により、2019年4月から、すべての企業において、労働者(年10日以上の年次有給休暇が付与される者)に対し年5日の年次有給休暇を取得させることが義務付けられました(労働基準法第39条7項)。この制度の趣旨は、年次有給休暇の取得を促進させて労働者の心身のリフレッシュを図ることにあるとされています。これまで、年次有給休暇は同僚への気兼ね等の理由から取得率が低調であったため、これを改善させるために年次有給休暇を取得させることが企業の義務となったのです。
2 これまで所定休日としていた休暇5日分を労働日に戻すことは問題か
年5日の年次有給休暇を取得させることが義務となったことで、労働日数が減らないように所定休日を労働日に戻して、この分を年次有給休暇に当ててもらおう、とお考えになる企業もあるかもしれません。しかしながら、このような対応は、年次有給休暇の取得を促進させて労働者の心身のリフレッシュを図るという制度趣旨にそぐわないため、働き方改革の観点からは望ましくない対応です。
また、他の労働条件はそのままで所定休日を減らすと、従業員にとっては賃金は変わらないのに年間の所定労働日数が増えることになります。これを法的観点からみると、労働者の労働条件を不利益に変更するということになります。労働契約の内容である労働条件を変更するには、労使間の合意が必要とされているため(労働契約法8条)、会社が一方的に労働条件を変更することができるのかが問題となります。
3 会社が一方的に労働条件を変更することはできるか
では、会社が一方的に労働条件を変更することはできるのでしょうか。会社が一方的に労働条件を変更することができる方法として、就業規則の変更というものが挙げられます。一定の要件を満たせば、労働者の同意を得ることなく、就業規則を変更することができるとされています(労働契約法10条)。
(1)就業規則の不利益変更
ここで、一定の要件とは、次のふたつです。
- ①内容面:変更後の労働条件が合理的なものであること
- ②手続面:変更後の就業規則が労働者に周知されていること
①の変更後の労働条件が合理的なものか否かは、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況、その他の就業規則の変更に係る事情を総合考慮して判断されます(労働契約法10条)。そして、これまでの判例の蓄積により、労働条件の変更の必要性に関しては、賃金・退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的に不利益を及ぼす場合には、高度の必要性が要求されるとされています。変更後の内容の相当性に関しては、代替措置の有無や経過措置の有無も考慮されるとされています(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号60頁、最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決・労判787号6頁など)。
また、②の就業規則の周知については、労働者が変更内容を知り得る状態に置いておけばよく、例えば、労働者がアクセスできるクラウド上に保管したり、会社の棚やキャビネットに置くなど、労働者が見ようと思えば見ることができる状態にしておけば足りるとされています。
(2)本件で就業規則の変更は認められるか
それでは本件のように就業規則を変更することは認められるでしょうか。
休日の日数や年間の所定労働時間は労働者にとって重要な労働条件です。他の労働条件はそのままで所定休日を減らす場合には、変更後の労働条件に合理性が認められ難いと考えますが、所定休日を減らす代わりに、賃金を増加させたり、平日の所定労働時間を短縮するなどの代替措置などを講じた場合には、変更後の労働条件に合理性が認められ、就業規則の変更が認められる可能性があると思料いたします。