1 テレワーク(在宅勤務)導入の際の就業規則等の変更の要否について
(1)原則としてテレワークの実施に就業規則等の変更は不要であること
まず、原則としてテレワークを実施する際に就業規則を変更する必要はありません。また、就業場所を自宅として在宅勤務とする場合には、通勤時間がなくなることに伴い全体の拘束時間が減少するため、労働者の個別の合意を得ることも要しないと考えられています。そのため、通常は雇用契約書を締結し直すことも必要ありません。 ただし、採用直後からテレワークとして在宅勤務を命じる場合には、就業場所として自宅があること労働条件として明示しておく必要があります(労働基準法(以下「労基法」という。)15条1項、労働基準法施行規則(以下「規則」という。)5条1項1号の3)。
(2)例外的に個別の合意ないし就業規則の変更が必要となるケースについて
この点、締結している雇用契約書において、就業場所を特定の事業場に限定する趣旨の規定がある場合に、就業規則の変更等が必要かについては争いが生じる余地があるため、就業場所として自宅を追加する旨の就業規則の変更及び労働者の個別の合意を取り付ける方が無難といえます。 また、テレワークの際に生じる費用(通信費等)について従業員の負担とする場合には、労働者に不利益な変更を及ぼすことになるため、就業規則に記載する(労基法89条5号)と共に、労働者の個別の同意を要することとなります。費用に関する具体的な内容については後述しますが、労働者に不利益を生じさせる側面が大きいため、通信費などは会社で全額負担する方が無難といえます。 なお、就業規則の規定方法や個別の合意書案の作成をご希望する場合には、個別に弁護士までご相談ください。
2 テレワーク実施の際のポイント1(労働時間の管理)
テレワーク実施の際にしばしば問題となることの1つに労働時間の管理が困難であるということが挙げられます。通常であれば、タイムカードなどにより出退勤の管理が行えていたものが利用できなくなるからです。 この点、多くの会社は、出退勤の管理方法として、業務開始及び終了時に電話やEメールで上長に連絡するという方法を採用しています。 また、労働時間の把握が困難という点は、残業時間の管理についても同様ですので、残業については事前の許可制とし、テレワーク中の残業を原則を禁止することなどもポイントとなります。 さらに、テレワークの実施にあたり、通常の勤務時間とは異なる取扱いとしてフレックス制を導入する会社も増えています。 この点、フレックス制を導入する場合には、就業規則などにおいて始業及び終業の時刻をその従業員の決定に委ねる旨を定めるだけでなく、労使協定で一定の事項について定める必要があり、特別な対応(労基法32条の3)が必要になりますので、詳しい導入方法については、弁護士にご相談ください。
3 テレワーク実施の際のポイント2(費用負担に関するルール)
テレワークを導入した場合、通常以下の費用が発生することが想定されます。 ① 情報通信機器の費用(主にパソコンとその周辺機器、携帯電話など) ② 通信回線費用 ③ 文具、備品等 ④ 水道・光熱費 労基法89条5号によれば、「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項を就業規則に定めなければならない。」とされているため、前述のとおり就業規則を変更すると共に、労働者負担とする場合には労働者の個別の合意を取得する必要があります。 なお、この場合の問題の中心は、②や④について、個人使用と業務使用との切り分けが困難な点にあります。この点、少なくとも通信回線費用については、会社負担とする取り決めとしたり、モバイル通信回線を附属したパソコンを会社が全額負担し従業員に貸与するなどという方法を採るなどとすることが一般的な対応となっています。 いずれにせよ、費用負担の点については労使間で揉めやすい部分ですので、就業規則で明確なルールを定め、従業員に対し事前に説明しておくことが重要です。