1.会社として行ってはならない「不当労働行為」とは
労働組合は団体交渉権や争議権などの権利を法的に保障されています。そして、組合はこれらの権利を侵害された場合(不当労働行為があった場合)、労働委員会に救済を求めることができます。労働委員会とは、労働組合法に基づき設置された機関であり、中央労働委員会(国の機関)と都道府県労働委員会(都道府県の機関)の2種類が置かれています。この救済手続により、労働組合及びその構成員である労働者は、労働組合の結成やその活動に関連してなされた使用者の一定の行為の除去を求めることができます。 では、不当労働行為とはいかなる行為を指すのでしょうか。 不当労働行為は、労働組合法7条に列挙されている行為の総称です。具体的には次の行為を指します。
- ➀不利益扱い(労働組合法7条1号)
- 労働組合の組合員であること、労働組合に加入し結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたこと、のいずれかを理由に解雇、配置転換、昇給昇格の停止などの不利益を与えることです。
- ➁団体交渉拒否(労働組合法7条2号)
- 正当な理由なく団体交渉を拒否すること、不誠実な団体交渉を行うことです。
- ➂支配介入(労働組合法7条3号)
- 労働組合の結成または運営に対して干渉行為を行うことです。これにはさまざまな形があり、労働組合結成を妨害したり、労働組合を敵視する発言をしたりするなど、組織の弱体化・形骸化をねらったあらゆる行為が支配介入行為に当たります。
- ➃経費援助(労働組合法7条3号)
- 組合運営費を会社が支出することです。労働組合は会社の援助なく独自に運営するのが原則であり、会社が労働組合に過度の便宜供与を行うことは組合活動の自主性を損ない、かえって労働者に不利益を生ずるおそれがあることから禁止されています。
- ➄労働委員会への申立などを理由とする不利益取扱い(労働組合法7条4号)
- 労働委員会に対する申立て、同委員会で証人となったことや同委員会における発言などを理由として解雇その他不利益な取扱いをすることです。
2.不当労働行為に当たるケース・当たらないケースとは
次に、設問のケースの場合が不当労働行為に該当するかをみてみます。
(1)組合による会社施設の利用を拒否する場合
組合による会社施設の利用を拒否する場合は、原則として不当労働行為(支配介入)には当たりません。会社施設は会社のものであり、会社のものを誰に使わせるかは会社が自由に決めてよいからです。判例も、会社施設を利用させるかどうかは原則として使用者の自由であり、施設管理権の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除き、使用者が施設の利用を許諾しないからといって直ちに不当労働行為が成立するわけではない旨、判示しています(オリエンタルモーター事件:最高裁平成7年9月8日判決・労判679号11頁)。これは会社施設の利用が就業時間内であっても就業時間外であっても同様です。就業時間外は従業員に対する使用者の指揮監督は及ばず、従業員は組合活動を自由にできますが、施設に対する使用者の施設管理権は就業時間外であっても及ぶとされているためです。 ただし、会社内に複数の組合がある場合に一方の組合にだけ会社施設の利用を許すと、組合間差別となり支配介入行為に当たり得ますので、この場合の対応には注意が必要です。 なお、組合による会社施設の利用を拒否するのではなく、許可することが、先に述べた経費援助の不当労働行為に該当するのではないかと疑問を持たれるかもしれませんが、会社の便宜供与が最小限の組合に対する援助である限りは法律上の例外として不当労働行為に該当しないとされています(労働組合法7条3号ただし書)。それゆえ、会議室や組合掲示板の貸与、社会通念上相当な範囲の通信費の会社負担などは不当労働行為に該当しないと考えられています。 もっとも、組合による会社施設の使用を認める場合でも、就業時間外での許可に限るべきです。就業時間内での会社施設の利用を認めると、就業時間内の組合活動を認めることに繋がり、当該活動を行った時間分の賃金支払を巡って問題となるおそれがあります。従業員が就業時間内に組合活動をした場合、当該時間については就業していないことから賃金を支払う必要がなく、また、組合活動に費やした時間に対して賃金を支給した場合には、経費援助の不当労働行為に該当し得ることになるためです。
(2)組合に加入してない従業員だけに特別手当を出す場合
組合に加入してない従業員だけに特別手当を出す場合は、不当労働行為(不利益取扱い)に当たります。労働組合の組合員であることを理由に、組合に加入してない従業と賞与について差別していることになるためです。
3.会社が不当労働行為を行うとどうなるか
不当労働行為があった場合(もしくは不当労働行為があったと組合が考えた場合)、組合または組合員は労働委員会に救済を求めることができます。 では、労働委員会に不当労働行為救済申立がなされたら、その後はどうなるのでしょうか。
(1)都道府県労働委員会(都道府県の機関)での初審手続
労働委員会は、それぞれ同数の使用者委員(使用者を代表する委員)、労働者委員(労働者を代表する委員)、公益委員(公益を代表する委員)で組織されます(労働組合法19条1項)。そして、申立てを受けた都道府県労働委員会は調査、審尋を行い、公益委員による合議を経て、申立てに理由があれば救済命令(誠実交渉命令や具体的な支配介入行為の禁止命令など)を出し、理由がなければ棄却命令を出します(労働組合法27条の12第1項)。会社としては労働委員会の調査、審尋に対応するため、準備書面や証拠の提出を行う必要があります。なお、労働委員会は労使紛争の根本的解決をも目的としていますので、積極的に和解の勧告を行うことも多く、実際には和解で終わるケースがほとんどです。
(2)中央労働委員会(国の機関)での再審査手続
初審命令に不服がある場合は、中央労働委員会に再審査の申立てをすることができます(労働組合法27条の15)。中央労働委員会は、都道府県労働委員会の命令を取り消し、承認し、もしくは変更する権限を有しています(労働組合法25条2項)。
(3)裁判所での行政訴訟
都道府県労働委員会や中央労働委員会の命令は行政処分です。そのため、これらの命令に不服がある場合には、行政事件訴訟に基づき取消訴訟を提起することができます。