1. 法的リスクと行政手続の流れ
労働者からの申告等により、最低賃金を下回る賃金設定が疑われると、まず労働基準監督署から調査が行われる可能性があります。労働基準監督署による調査の結果、最低賃金法違反の事実が認められれば是正勧告が出され、期日までに不足分を支払うなどの自主的な改善を行わなければなりません。仮に改善が見られない、あるいは違反の程度が重大であったり、悪質と判断されれば、是正命令や企業名の公表、罰金など法的処分を受けるリスクが上がります。 また、この段階で違反が公に知れ渡ると、社外の関係者(取引先や金融機関など)の信頼を損なうおそれもあるため、違法状態の早期発見と早期是正が何よりも重要となります。特に中小企業の場合、行政や金融機関との関係性が経営継続に直結することも少なくないため、軽視できません。
2. 未払賃金請求によるキャッシュフローへの影響
従業員に支払っていた給与の内容が最低賃金法に違反していた場合、従業員から過去に遡って未払賃金(最低賃金額と実際に支払った賃金額の差額)を一度に請求するケースも珍しくありません。多くの従業員が同時に請求を受けた場合、総額として多額の支払いを迫られる可能性もあり、それが企業のキャッシュフローを一気に圧迫する危険性も無視できません。 さらに、未払賃金に加えて遅延損害金を負担しなければならないほか、付加金といった制裁的要素を上乗せされる場合もあり、企業にとって予想以上の出費となります。利益率の低い業種や資金繰りの厳しい中小企業にとっては、このような支払が発生することは、企業の倒産の引き金となりかねません。
3. 企業イメージの低下と採用難・取引への波及
最低賃金法違反の事実が一度明るみに出れば、SNSやインターネットの口コミサイト等でいわゆる「ブラック企業」と認識されるリスクが高まります。こうした悪評は迅速に拡散し、かつ削除も容易でないことが多いことから、採用面で人材が集まりにくくなるだけでなく、既存の社員にも「この会社は賃金すら守れていない」という悪印象を与えてしまい、従業員の離職率が上昇するおそれがあります。 また、取引先や顧客からも「コンプライアンス意識が低い企業」と見做されてしまい、契約更新や新規案件の獲得が難しくなる可能性もあります。特に、社会的評価を重視する大企業や自治体との取引では、企業イメージの悪化が会社にとって致命的な打撃となりかねません。
4. まとめ
最低賃金法違反は、企業にとって行政処分や従業員からの賠償請求のリスクだけにとどまらず、企業の信用失墜や採用難、取引関係への悪影響など多方面にリスクが波及する可能性がございます。このような悪印象は、一度公に広まってしまうと、解消するまでに長期を要する可能性が高く、企業の経営にとっては取り返しのつかないダメージを招くおそれもあります。 こうした事態を避けるためにも、就業規則や賃金規程などを定期的に確認し、問題があれば速やかに是正することが欠かせません。 当事務所では、弁護士が最低賃金法や労働基準法の遵守状況を精査し、違反リスクを未然に防ぐアドバイスを行うほか、税理士・社労士とも連携して賃金制度や労務管理の整備をサポートできます。少しでも懸念がある企業の方は、お早めにご相談ください。