1.賃金規程と労働契約の優先関係
労働契約法上、就業規則(賃金規程)で定める労働条件を下回る労働契約は無効とされる一方(労契法12条)、雇用契約において賃金規程を上回る労働条件を合意していた部分については、有効とされています(労働契約法7条但書)。 この点につき、賃金規程にない手当を従業員に追加支給することは、賃金規程を上回る労働条件に当たりますので、会社は、ある従業員に対して賃金規程にない手当を支給するために、当該従業員の雇用契約書上に当該手当の規定を設けることができるのが原則です。 ただし、雇用契約書で設けた同手当を廃止する場合には、当該従業員の同意が必要となり、会社の決定だけで一方的に廃止することはできません(労働契約法8条)。
2.均等待遇の原則、男女同一賃金の原則、同一労働同一賃金の原則
労働基準法3条は、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」と定めており(均等待遇の原則)、また、労働基準法4条は、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」と定めています(男女同一賃金の原則)。 加えて、近年では、働き方改革の一環として、正規・非正規雇用者間で、基本給や賞与などについて不合理な待遇差を設けることが禁止されました(同一労働同一賃金の原則)。 このように、従業員間で待遇に差異を設ける場合には、均等待遇の原則や男女同一賃金の原則、同一労働同一賃金の原則に反しないか注意する必要があります。
3.賃金規程による労働条件の変更
ある従業員に特別な手当を支給するもう一つの方法として、賃金規程に当該従業員のみが満たす新たな手当の規定を設けることも考えられます(例えば、当該従業員に役職を与え、これに対する役職手当の規定を設けるなど)。 ただし、賃金規程に手当の規定を設けた後になって、同手当を廃止する場合には、不利益変更として法律上制限されます。 賃金規程の変更により労働条件を変更するには、原則として、労働者との間で同手当の廃止について個別の合意を得る必要があります(労働基準法9条)。労働者の同意を得ない場合には、労働基準法10条所定の諸要素(①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、⑤その他の就業規則の変更に係る事情)の軽重を評価して合理的といえることが必要であり、かつ、変更内容を事業場に備え置く等して労働者に周知することが必要となります。