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会社による年休の買上げについて

①今月末に退職する従業員から消化できなかった年次有給休暇(以下「年休」といいます。)を買い取って欲しいとの申し出があったのですが、会社はこの申出に応じなければならないのでしょうか。

②また、在職中の他の従業員に年休を買い取って欲しいと言われた場合にはどのように対応すればよいのでしょうか。


①会社に年休を買取る義務はないので、応じる必要はありません。

②在職中の従業員に対して、法律上付与されている年休は、労働者に対し実際に休日を与える必要があるため、買取ることは法律上できません。ただし、退職日まで間がないなどの理由でもはや行使できなくなった年休、会社が法律上付与すべき年休を超えて付与している特別休暇、消滅時効により消滅した年休の3種類については、会社が買取りに応じることは可能です。

小林 一樹

本稿執筆者小林 一樹(こばやし かずき)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

  • 【ポイント】

  • ・退職する従業員から年休の買取りを要求された場合、これに応じる義務はありません。

  • ・労働者に対し法律上年休が付与されている部分については、原則として買取りすることはできません。

  • ・例外的に、以下の3つの場合には年休の買取りが可能になります。
     ①退職が予定されており年休の権利行使が事実上不可能となった部分
     ②法律上付与されている年休を超えて会社が特別に有給休暇を付与した部分  ③年休が時効消滅した部分
     ①~③のいずれの場合も、年休(又は特別休暇)の買取りに任意に応じることが可能な場合であって、法律上会社に年休の買取り義務が生じることはありません。

〈目次〉
1.年休の買取りに関する基本的事項について
2.年休の買取りが可能な場合について
 (1) 退職予定者の年休
 (2) 特別休暇に係る年休
 (3) 時効消滅した年休




1.年休の買取りに関する基本事項について
 年休制度(労基法39条)の基本事項については、別の記事で紹介したとおりですが、簡単におさらいをすると、年休は「6か月間継続勤務」し、「全労働日の8割以上出勤」した労働者に有給休暇を取得する権利を法律上付与する制度です。この年休制度の趣旨は、労働者に対し給料が保障された状態において休日を取得する権利を付与することで労働者の健康面に配慮するというものです。すなわち、法律は労働者に対し、現実に休日を取得させることを目的としているのであって、休日を与える代わりにお金を払えば良いとしているのではないということです。
 したがって、年休が法律上付与されている部分については、現実に労働者に休日を与えなければならないのであり、年休の買取りを行って年休を取得させたことにするということは許されないということになります。これに違反すると労基法違反として罰則が科される可能性がある(労基法119条1号)ため注意が必要です。



2.年休の買取りが可能な場合について
 原則として、年休の買取りはできませんが、以下のような例外的な場合に、年休を買取ることができます。厳密に言うと以下の⑵は法律上年休が付与された部分ではないのですが、一般的に「有休(年休)」として考えられていることが多いため、ここでは説明に加えています。

 (1) 退職予定者の年休
 例として、退職日が決まった従業員について、年休が25日残っているというケースを想定します。当該従業員は退職日までにできる限り年休を消化することとしましたが、引継ぎ等の関係で退職日までに14日間の年休を消化することができないということになりました。
 このような状況下において、従業員から消化できなかった14日間の年休を会社側に買取るよう申出があった場合には、会社側がこれに任意に応じることは可能です。
 なぜなら、この場合には、従業員が退職予定であるため、今後労働者が実際に年休を取得することができないからです。
 なお、この場合に年休の買取り額については法律上額が定められているものではないので労使間で協議をして決定することになります。就業規則において年休を買取る場合の金額が定められている場合にはそれによるということになりますが、必ず月給の日割額を支払わなければならないというものではありません。

 (2) 特別休暇に係る年休
 法律上付与することが義務づけられている年休とは別に、会社が特別休暇として有給休暇を与えている場合があります。このような特別休暇については、そもそも会社が付与するかどうかについて自由に決めた部分ですので、買取るかどうかという部分についても自由に決めることができます。

 (3) 時効消滅した年休
 年休は、発生日から2年経つと時効により消滅します(労基法115条)。時効消滅した部分について会社側はこれを付与する義務はなくなりますので、どのように処理するかについて自由に決定できるということになります。

【弁護士への相談について】
 以上が年休の買取りに関する説明になります。実際、年休の買上げについては、給料を支払うことに変わりは無いのだから許されるだろうと考えている経営者の方々は多かったのではないでしょうか。しかし、先にお話ししたとおり、在職中の従業員に対し、年休を現実に与える代わりに買取ることは法律で禁止されていますので注意してください。また、買取りが可能な場合でも原則として買取りに応じる義務はありませんし、仮に応じる場合であっても買取り金額については自由に決定することができます。
 実際に年休の買上げを利用する場合としては、上記の他に退職時に引継ぎを行ってもらう際の対価として支払う場合や、退職勧奨で従業員を退職させる場合に退職金に付加して支払う場合などが考えられます。しかし、いずれの場合にも退職後の紛争リスクが生じる可能性があるため、退職時の手当として年休の買上げを利用しようと考えている方は、たかが年休と考えずに一度労働専門の弁護士に相談することをおすすめいたします。


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