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2021/10/27

同一労働同一賃金 総論

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Question

 中小企業でも、いわゆる同一労働同一賃金の対応が必要だと聞いていますが、そもそも同一労働同一賃金とはどのような制度で、会社はどのような対応が必要なのでしょうか。

Answer

 日本における同一労働同一賃金と呼ばれる制度は、①正社員と非正規労働者との間の不合理な待遇差を禁止するという「均衡待遇の確保」と、②一定の要件の下においては正社員と非正規社員の待遇の違いそのものを禁止するという「均等待遇の確保」があります。
 この制度に対応するためには、単に賃金だけの問題ではなく、休暇などあらゆる待遇について、均衡待遇又は均等待遇となるよう労務制度を設計する必要があります。

ポイント

  • ・同一労働同一賃金制度は、正社員と非正規社員との間の不合理な待遇差の禁止、一定の場合における(不合理なものに限られない)待遇差自体の禁止があります。
  • ・待遇とは賃金に限られずあらゆる待遇が含まれます。
  • ・不合理であるかは個別具体的に検討する必要があり、会社ごとで異なります。

目次

1.はじめに

 平成30年6月29日、働き方改革関連法が成立し、いわゆる同一労働同一賃金制度の拡充を図るため、労働契約法、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート有期法」といいます。)と、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「派遣法」といいます。)が改正されました。同一労働同一賃金という響きからすると、同じ労働をしている労働者は同じ賃金を支払わなければならない制度であるとイメージされる方も多いかと思います。しかし、法律が不合理な待遇差を禁止しているのは、同一の労働をしている場合に限定されませんし、待遇差も賃金に限られません。
 本記事では、まず、いわゆる同一労働同一賃金という制度が、誰に関する、どのような制度であるのかといった全体像を説明します。詳細については、①パート・有期労働者の均衡待遇の確保、②パート・有期労働者の均等待遇の確保、③派遣労働者の同一労働同一賃金に関して、それぞれ別記事で説明いたします。

2.同一労働同一賃金が適用される労働者とは

 現在、いわゆる同一労働同一賃金と呼ばれる制度を規定している法律は、パート有期法と派遣法の2つです。この2つの法律によって問題となる待遇の相違とは、①パートタイム労働者(※1)と同一事業主に雇用される通常の労働者(※2)間の待遇の相違、②有期労働者(※3)と同一事業主に雇用される通常の労働者間の待遇の相違、③派遣労働者と派遣先に雇用される通常の労働者間の待遇の相違です。正社員同士の待遇の相違は問題になりません。

(※1)フルタイムで労働しない労働者を意味します。
(※2)ここではいわゆる正社員という意味と理解していただいて結構です。
(※3)期間の定めがある労働者を意味します。

3.パート・有期労働者の同一労働同一賃金

(1)均衡待遇の確保

 パート有期法8条は、パート・有期労働者と、同一事業主に雇用される通常の労働者との間の不合理な待遇差を禁止しています。
 パート有期法8条は、「待遇」の例として、基本給、賞与を挙げていますが、賃金に限られず、教育訓練の機会や休暇などあらゆる待遇が含まれます。
 次に、その相違が「不合理」であるか否かは、①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情から判断されます。
 ①の職務の内容については、業務の内容と当該業務に伴う責任の程度によって考慮されます。業務とは、職業上継続して行う仕事とされており、業務内容が同じか否かを考慮します。責任の程度は、単独で締結可能な契約に係る金額や管理する部下の人数、決裁権限、業務の成果について求められる役割、トラブル発生時や臨時、緊急時に求められる対応の程度、ノルマ等の成果への期待度から判断されます。
 ②の職務の内容及び配置の変更の範囲とは、異動や転勤など人材活用の範囲をいいます。
 ③のその他の事情とは、職務の成果、能力、経験、合理的な労使慣行、労使交渉の経緯等とされております。
 これらの事情を考慮し、不合理と判断されるパート・有期労働者と正社員の間の待遇差は禁止されます。個別の待遇ごとの不合理性の判断については、別記事で説明いたしますのでご参照ください。

(2)均等待遇の確保

 パート有期法9条は、一定の場合において、パート・有期労働者と、同一事業主に雇用される通常の労働者との間の待遇の違いそのものを禁止しています(不合理であるかは問題になりません。)。
 一定の場合とは、①職務の内容が通常の労働者と同一のパート・有期雇用労働者であること、②パート・有期雇用労働者であることを理由とした待遇差であることです。
 このような場合には、その待遇差が不合理か否かに関係なく、その相違そのものが禁止されます。均等待遇の確保については、別記事で説明いたしますのでご参照ください。

(3)改正内容などの概要

 上述のとおり、働き方改革関連法の成立によって、パート有期法は改正されました。パート有期法は、均衡待遇の確保に実効性を持たせるために、①待遇差に関する説明義務の対象などの追加(パート有期法14条)、②明らかな均衡待遇違反の場合において行政が使用者に対して助言、指導、勧告ができるような制度の導入、③ADRの整備などが図られました。
 また、上述のとおり、「不合理」であるかの判断基準を明確化するとともに、厚生労働省が「同一労働同一賃金ガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)」(以下「ガイドライン」といいます。)のほか、「パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書」、「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」(以下「点検マニュアル」といいます。)、「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」(以下「職務評価マニュアル」といいます。)を作成、公開しました。

4.派遣労働者の同一労働同一賃金

 改正前の派遣法は、上述のような均衡待遇の確保や均等待遇の確保を求める規定はなく、待遇差に関して均衡に配慮する義務が定められていたにすぎません。これに対して改正派遣法は、均衡待遇の確保、均等待遇の確保の規定を新設し、それらに実効性を持たせるための規定も整備されました。

(1)原則として均衡待遇、均等待遇の確保が必要

 改正派遣法では、パート・有期労働者と同様に、派遣先事業主に雇用される通常の労働者との均衡待遇、均等待遇の確保を求めています(派遣法30条の3)。不合理性の判断や均等待遇が求められる要件はパート有期法8条、9条と同様です。
 また、不合理であるかの判断基準の明確化が図られたとともに、派遣先に対して、比較対象となる労働者の待遇に関する情報を派遣元に提供する義務が規定されました。

(2)例外としての労使協定方式

 原則としては、上述のとおり、派遣先事業主に雇用される通常の労働者との均衡待遇、均等待遇の確保が必要になりますが、派遣先が変わるたびに労働者の待遇も上下することとなり派遣労働者の待遇が不安定になることや、必ずしも派遣先の待遇と職務内容が整合的とはいえないことから、派遣労働者の段階的、体系的なキャリアアップ支援と整合しないといった不都合も生じ得ます。
 そこで、例外的に、一定の要件を満たす労使協定を結ぶことで、均衡待遇、均等待遇の確保の適用除外を受けることができるようになります。この点については、別記事で説明いたしますのでご参照ください。

(3)その他の改正の概要

 その他、派遣元事業者の派遣労働者に対する待遇の明示、説明義務の整備や、派遣先事業者による派遣労働者への教育訓練の実施、福利厚生施設の利用機会提供の措置の義務化、ADRの整備などが図られました。

佐々木 将太(ささき しょうた)

本稿執筆者
佐々木 将太(ささき しょうた)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 以上のように、日本における同一労働同一賃金制度の内容は多岐にわたっており、事業主が行うべき措置も、人事労務の制度設計に限られず、説明義務など複数存在します。この記事では、全体像を説明しましたが、個別の内容についてはそれぞれ別記事で説明いたしますので、そちらをご参照いただくとともに、どのような制度が適切であるか、是非弁護士にご相談ください。

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