1.派遣契約の中途解約に伴う派遣元企業と派遣労働者の関係
派遣元企業と派遣先との労働者派遣契約(以下、単に「派遣契約」といいます。)が中途解約された場合であっても、派遣元企業と派遣労働者との雇用契約はそのまま存続することになります。そのため、派遣元企業は、単に派遣契約が中途解約されたことをもって、当該派遣労働者を当然に解雇できるわけではありません。すなわち、解雇の有効性については厳しく判断されるところ(別記事参照)、解雇の有効性が認められない限りは、仮に当該派遣労働者の次の派遣先が見つからなかったとしても、雇用契約に基づき、派遣元企業としては、当該派遣労働者に対して、その賃金又は休業に伴う休業手当(労働基準法第26条)を支払う必要があります。 なお、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第427号)第2.2.⑶においても、派遣契約の中途解約がなされた場合において、その雇用契約が存続することを前提に、派遣元企業が当該派遣労働者に対して講ずべき義務が定められています。
2.派遣契約の中途解約に伴う派遣先の労働者派遣法上の措置義務の内容
上記のとおり、派遣契約の中途解約がなされても、派遣元企業と当派遣労働者との雇用契約が存続しますが、このことについて派遣先は何にも義務を負わないのでしょうか。この点、労働者派遣法第29条の2により、派遣先は、自らの都合により派遣契約を解除する場合には、新たな就業の機会の確保や休業手当等の支払に要する費用の負担等の措置を講じなければならないとされており、いずれかの措置を講じる法的義務が課されております。 具体的に、「新たな就業の機会の確保」については、当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等があげられます。また、「休業手当等の支払に要する費用の負担」については、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることができないとき、少なくとも派遣契約の中途解約に伴い当該派遣元企業が当該派遣労働者を休業させること等を余儀なくされたことにより生じた損害の賠償を行わなければならないとされております。さらに、休業手当等の支払に要する費用には、派遣元企業が、派遣契約の中途解約に伴い、やむを得ず当該派遣労働者を解雇した際に支給する解雇予告手当も含まれるとされています(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第428号)第2.6.⑷参照)(解雇の有効性については上記1で示したとおり、個別のケースごとに厳格に判断されます)。 以上のとおり、派遣元企業としては、派遣先からの中途解約について、派遣先の都合によるものと判断されるときは、新たな就業の機会の確保や休業手当等の支払に要する費用の負担を請求できます。 なお、派遣契約の中途解除が派遣先の都合によらないものであっても、派遣先は、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2.6.⑶では、派遣労働者自身の責めに帰すべき事由以外の事由であれば、関連会社での就業をあっせんするなどにより、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることが必要と記載されており、いわゆる努力義務が課されております。また、派遣先の都合によらない中途解約について、個別の派遣契約の内容次第によっては、何らかの請求ができる可能性もあります。
3.派遣契約の中途解約における派遣先の都合か否かの判断について
(1) 派遣契約の中途解約する理由の確認
そもそも、派遣元企業として、派遣契約の中途解約が派遣先の都合によるものかを判断するにあたって、派遣先が派遣契約を中途解約する理由を把握する必要があります。 この点、派遣先には、派遣契約の契約期間が満了する前に派遣契約の解除を行おうとする場合であって、派遣元企業から請求があったときは、派遣契約の解除を行った理由を当該派遣元企業に対し明らかにするものとすることが求められています(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2.6.(5)及び労働者派遣事業関係業務取扱要領第5.2.(1)イ(ハ)⑨(iv)参照)。そのため、派遣元企業は派遣先に対して、中途解約の理由を明らかにするように求めることができます。
(2) 派遣先の都合か否かの判断について
派遣契約の中途解約について、派遣先の都合によるかどうかについては、個別の事例ごとに判断されるものです。そして、厚生労働省によると、新型コロナウイルス感染に伴い、たとえば改正新型インフルエンザ特別措置法に基づく緊急事態宣言下における都道府県知事から施設の使用制限や停止等の要請・指示等を受けて派遣先において事業を休止したことに伴い、派遣契約を中途解除する場合であっても、一律に労働者派遣法第 29 条の2に基づく措置を講ずる義務がなくなるものではないと説明されています。 そのため、派遣元企業としては、たとえ新型コロナウイルスの影響による派遣契約の中途解約であっても、派遣先の都合によるものかどうかについては争うことができ、派遣先に対して新たな就業の機会の確保や休業手当等の支払に要する費用を請求することができる可能性があります。