HOME人事労務ラボ賃金 > 休業手当について

2020/09/16

休業手当について

Twitter facebook
Question

 当社では、新型コロナウイルスの影響で仕事が減ってしまったため、1か月ほど休業としたのですが、従業員から休業手当を支払うよう求められました。休業手当とは何ですか。どのような場合に支給が必要なのでしょうか。また、どのように計算するのでしょうか。

Answer

・休業手当とは、本来労働義務がある時間に労働ができなくなった際、従業員に対して支払うべき金銭のことです。
・企業側の責に帰すべき事由により休業となった場合に支払が必要です。
・支給額の考え方、計算方法については後述の説明をご参照ください。

ポイント

  • ・企業側に責任のある休業の場合、休業手当の支給が必要です。
  • ・支給すべき休業手当の金額は、労働基準法上、1日あたり平均賃金の6割以上と定められていますが、就業規則の定め次第では、休業の要因により10割の賃金補償が必要となるおそれがあります。
  • ・平均賃金とは、原則、休業日以前3か月間に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で割った金額のことをいいます

目次

1.休業手当について

 ここでいう「休業」とは、労働契約上労働義務がある時間について労働ができなくなることをいいます。労働基準法26条は、平均賃金の6割以上の休業手当の支払義務を定めることで従業員の最低生活の保障を図っています。
 また、休業手当と似た規定である民法536条2項前段は、以下で説明するように、適用される範囲が労働基準法26条に比べて狭いのですが、10割の賃金補償をしなければならないとしています。ただし、民法536条2項前段は任意規定であるため、就業規則等で休業の賃金補償について同条の適用を排除すると定めている場合には、支給義務を負うのは休業手当に限られます。
 なお、裁判例(※1)には、「従業員が、会社の責に帰すべき事由により休業した場合には、会社は、休業期間中その平均賃金の6割を休業手当として支給する。」と規定した就業規則は労働基準法26条の趣旨を定めたものに過ぎず、民法536条2項の適用を排除するものではないとしたものが存在します。ですから、就業規則には民法536条2項の適用を排除する旨を明確に規定すべきです。

(※1)いすゞ自動車事件(東京高裁平成27年3月26日判決・労判1121号52ページ)

2.休業手当支給の要否について

(1) 一般的な考え方

 休業手当の支給が必要となるのは、「使用者の責に帰すべき事由」が認められる場合、つまり、企業側に休業の責任がある場合と労働基準法26条は定めています。判例では、同条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法536条2項前段に定める「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、企業側に起因する経営、管理上の障害を含むと考えられています(※2)。
 そして、「責に帰すべき事由」は、企業側にとって不可抗力と認められる場合を除いて認められると解釈されており(※3)、①休業の原因が外部より発生した事故であり、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故である場合には不可抗力による休業であるとして、休業手当の支給が不要となります。

(※2)ノース・ウエスト航空事件、最高裁昭和62年7月17日第二小法廷判決、民集41巻5号1283頁・1350頁
(※3)菅野和夫『労働法〔第12版〕』457頁

(2) 具体例

ア 仕事がないため従業員を休業させた場合
 経営管理上の障害は、労基法26条の「責に帰すべき事由」に含まれます。ただし、仕事がなくなった原因が外部より発生した事故によるものかが問題となります。
 過去の事例を参考にすると、親会社の経営難による資金・資材の入手困難による休業の場合(※4)や会社が業務を受注できなかったために休業となった場合(※5)にも休業手当の支給は必要であるとされています。
 このような事例に照らすと、単に仕事がないという事情が外部より発生した事故であると認定されるのは困難といえ、休業手当の支払が必要となるでしょう。
 また、就業規則により民法536条2項の適用排除がされておらず、仕事がなくなってしまったことについて企業側の過失まで認められる場合には、10割の賃金補償が必要となるでしょう。

(※4)昭和23年6月11日基収1998号
(※5)大田原重機事件、東京地裁平成11年5月21日判決、労判776号85頁

イ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等感染症流行の影響で休業する場合
(ア) 感染症流行の影響で仕事がなくなり、従業員を休業させた場合
 感染症の流行は、企業側の活動とは無関係に外部で発生するものですが、休業を避けることができないかという点については別途考慮が必要です。
 アでも紹介した事例に照らすと、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故と認められるかは厳格に判断され、休業手当の支給が必要となる可能性は高いと考えられます。
 また、就業規則により民法536条2項の適用排除がされていない場合であっても、企業側の故意過失はないため、10割の賃金補償までは不要である可能性が高いでしょう。

(イ) 軽い風邪の症状が出ている従業員に対して感染防止のため休業を指示した場合
 重大な感染症への罹患が確認できていない従業員に休業を指示するということは、本来働くことができるにもかかわらず、それを拒否するということになりますので、その従業員の休業は不可抗力によるものとはいえず、休業手当の支給が必要となる可能性が高いと考えられます。
 また、就業規則により民法536条2項の適用排除がされていない場合、あくまでも当該従業員は働くことが可能なので、10割の賃金補償が必要となる可能性があります。

(ウ) 国(又は地方自治体)からの休業要請に基づき休業した場合
 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などの場合、休業の原因は事業の外部において発生したと考える大きな要素となります。
 ただし、在宅勤務や他に実施できる業務の検討を十分に行っていない場合、休業が避けることのできなかったものとは認められず、休業手当の支給が必要となる可能性が生じます。
 厚生労働省も「新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請や指示を受けて事業を休止し、従業員を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではありません。」との見解(※6)を示しています。
 ただし、民法上の賃金補償まで必要とされる可能性は低いでしょう。

(※6)令和2年7月1日時点

ウ 従業員がストライキを起こしたため休業する場合
 ノーワーク・ノーペイの原則によって、従業員の休業手当については原則として支給は不要です。ただし、判例上(※7)、「使用者が不当労働行為の意思その他不当な行為をもってことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情」がある場合には、ストライキ不参加者への休業手当を支給する必要があると考えられています。また、民法上の賃金補償も必要となるでしょう。

(※7)前掲ノース・ウエスト航空事件

エ 育児介護休業法に基づき従業員が休業する場合
 育児介護休業法に基づく休業は、従業員の申請に認められるものですから、会社からの命令により休業した場合に支給される休業手当支給の対象とはなりません。
 なお、休業中の賃金については、就業規則又は労働契約において特別な合意がなければノーワーク・ノーペイの原則により無給となります。

3.休業手当の支給額の計算方法について

 労働基準法26条に基づく休業手当については、平均賃金の6割以上を支給しなければならないとされています。そして、同法12条1項柱書は、平均賃金を休業日以前3か月間に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で割った金額としています。また、同法11条、12条4項は、賃金の総額に賞与などを除く各種手当て(通勤手当等)が含まれるとしていますので、計算の際には注意が必要です。

(例1)基本給30万円、通勤手当1万円で、残業代を1月に2万円、2月に1万円、3月3万円支給され、令和2年4月17日に休業した場合の平均賃金

 (33万円+32万円+34万円)÷(31+29+31)×0.6≒1万879円

 なお、新入社員等の休業で、従業員に対する支払実績がない場合には計算方法が異なります。平均賃金の算定期間が2週間未満の従業員であって、①満稼動の者は、その従業員に対して支払われた賃金の総額をその期間の総暦日数で割った金額に7分の6を掛けた金額、②通常の従業員とは大きく異なる業務を行う従業員には、通常の業務に対する賃金額に加算した金額が平均賃金となります(※8)

(例2)基本給20万円の4月6日入社の新入社員が令和2年4月17日に休業となり、満稼働していた場合

 20万円÷12日×6/7≒1万4286円

川島 孝紀(かわしま たかのり)

本稿執筆者
川島 孝紀(かわしま たかのり)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

本稿執筆者からのメッセージ

 休業手当を支払う必要がない場合があること、一方で、支払う必要がある場合にも企業側の対応によって支払額が変わってくることについて、ご理解頂けたかと思います。
 ただし、個別具体的な事例における判断については、法令や裁判例の解釈等を伴い、容易に行うことはできません。そこで、休業手当の支払や計算方法に関する疑問点がある場合には弁護士にご相談ください。

労働問題に関する
このようなトラブル
悩んでいませんか?

お問い合わせ

ご相談は以下まで、
お電話・メール・LINEにて受付ております。

相談のご予約はLINEが便利!

法律事務所ASCOPEを友達に追加しよう!

対応時間:平日10時~19時

「友だち追加」ボタンをタップ頂くことで
ご登録頂けます。

受付では、
一旦下記についてお聞きいたします。

法人名(ご担当者名)/ 所在地 / 電話番号 / 相手方氏名(コンフリクト防止のため)/
相談内容の概要(相手方代理人名、次回期日、進捗状況等)/
ご来所可能日時

TOP