1.改正健康増進法の全面施行に伴う受動喫煙防止義務について
2020年4月1日から、2018年7月に成立した改正健康増進法(正式には「健康増進法の一部を改正する法律」)が全面施行されました。従前、改正前の健康増進法及び労働安全衛生法上、職場における受動喫煙防止措置を講じることは事業者の努力義務と定められていたところ、この全面施行に伴い、事業者の法律上の義務とされました。 具体的には、改正健康増進法上、事業者(施設の管理権原者等)は「喫煙禁止場所に専ら喫煙の用に供させるための器具及び設備を喫煙の用に供することができる状態で設置してはならない」(同法第30条)等が定められており、また、「喫煙をすることができる場所を定めようとするときは、望まない受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮しなければならない」(同法第27条第2項)と定められています。このように、事業者は、改正健康増進法において喫煙が禁止される場所における喫煙をさせる状態にしてはならず、かつ、望まない受動喫煙を防止するように配慮することが求められます。
2.事業者が受動喫煙防止対策として講ずべき具体的内容について
事業者が受動喫煙防止対策として講ずべき具体的内容としては、上記のとおり、改正健康増進法において原則屋内全面禁煙とされていることから、会社の屋外に喫煙所を設け、屋内の喫煙を禁止することが考えられます。会社の屋内において喫煙所を設けたいという場合は、改正健康増進法上、たばこの煙の流出を防止するための一定の技術的基準に適合する喫煙専用室又は指定たばこ専用室をとすることが認められていますので、これらの施設を喫煙所とすることも考えられます(当該技術的水準については、令和元年7月1日基発0701第1号「『職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」の策定について」(以下、単に「ガイドライン」といいます。)の別紙1及び別紙2参照)。 また、改正健康増進法においては、20歳未満の者を喫煙可能な場所へ立ち入らせることが禁止されていることから、そのような場所へ立ち入らせること又は業務を行わせることをしないようにしなければなりません。 その他、紙幅の関係上、全てを説明することは省きますが、事業者には、ガイドライン等により、受動喫煙防止対策として検討又は配慮しなければならない事項が複数定められており、これらに応じた受動喫煙防止対策を講じる必要があります(厚生労働省のHP上の「なくそう!望まない受動喫煙」のWebサイトでは、具体的な受動喫煙対策の事例が紹介されております。)。 ただし、喫煙目的施設や既存の経営規模の小さな飲食店(既存特定飲食提供施設)においては、喫煙専用室又は指定たばこ専用室以外の場所であっても、屋内における喫煙場所を設けることができる等、上記の限りではありません(「喫煙目的施設」及び「既存特定飲食提供施設」の定義等についてもガイドラインをご参照ください。)。
3.受動喫煙防止対策を講じる義務に違反した場合のペナルティについて
事業者が、改正健康増進法上の受動喫煙防止対策を講じる義務に反した場合、法律上、指導・助言又は勧告・命令等がなされ、これらに従わない場合(改善が見られない場合)には、 50万円以下の過料が課されることになります。 また、受動喫煙防止対策を怠った結果、従業員が受動喫煙によって健康被害が生じるなどした場合、その健康被害について、労災の認定がなされたり、当該従業員から安全配慮義務違反等を理由に損害賠償請求がなされたりするおそれもあります(改正前健康増進法においても、たとえば東京地判平16・7・12判時1884巻81号など、受動喫煙防止対策を怠ったとして損害賠償請求が認められた例があります。)。 そのため、事業者としては、これらのペナルティや紛争リスクを防ぐために、改正健康増進法及びガイドラインを遵守かつ参考にし、受動喫煙防止対策を適切に講じる必要があります。