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2023/05/26

懲戒解雇当時、会社は認識していたが、解雇通知書には記載しなかった従業員の非違行為を根拠として、懲戒解雇が有効とされた事例 東京高裁平成13年9月12日(労働判例816号11頁)

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目次

1.事案の概要

 本件は、被告タクシー会社が、被告従業員であり被告労働組合支部の副支部長でもあった原告タクシー乗務員に対し、①本懲戒解雇の直接のきっかけとなった、組合執行委員会終了後の原告の職場離脱行為、②かかる執行委員会終了後の原告の飲酒運転行為、③本懲戒解雇以前の原告の多数回にわたる職場離脱行為、メーターの不正操作、職場における粗暴な言動、営業車両の違法駐車等を理由として、懲戒解雇を行ったことの有効性が争われた事案です。
 本件の特殊性として、被告会社は、懲戒解雇時、上記①の非違行為のみを解雇通知書に記載して原告に交付していました。②及び③の各非違行為については、その内容が多岐にわたるため、あえて解雇通知書には記載せず、本懲戒解雇の直接のきっかけとなった①の非違行為のみを解雇通知書に記載していました。
 この特殊性に鑑み、本判決の第一審は、本懲戒解雇の有効性を判断するにあたり、解雇通知書に記載された①の非違行為のみに限定して解雇理由を認め、②及び③の各非違行為については、被告会社が認識していなかったか、認識していたとしても懲戒解雇の理由とは考えていなかったとし、①の非違行為のみでは就業規則所定の懲戒解雇理由にはあたらないと判断し、懲戒解雇が無効であると判断しました。これに対し、被告会社が、②及び③の各非違行為についても、懲戒解雇当時、その全てを認識しており、懲戒解雇の理由とする意思をもっており、解雇通知書に記載していなかったとしても、懲戒解雇の根拠とするべきだとして、控訴したのが本判決です。
 したがって、本判決の争点は、懲戒解雇時に交付した解雇通知書に記載されなかった②及び③の各非違行為を、本件裁判の際に事後的に解雇の根拠として追加して懲戒解雇を行うことが有効であるかどうか、ということになります。


2.裁判所の判断の概要

 裁判所は、まず「懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである」と述べた過去の判例(山口観光事件・最一小判平成8年9月26日労判708号31頁)を引用します。そのうえで、懲戒解雇の際に会社が認識していなかった従業員の非違行為は、原則として、懲戒解雇の理由とされたものでないから、その存在をもって懲戒解雇の有効性を根拠づけることはできないが、懲戒解雇当時に会社が認識していた従業員の非違行為については、それが、たとえ懲戒解雇の際に告知されなかったとしても、告知された非違行為と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものである場合には、告知されていないその非違行為によって当該懲戒解雇の有効性を根拠づけることができるものとしました。
 つまり、懲戒解雇当時に、会社が認識していた非違行為であって、解雇理由書に記載された非違行為と密接な関連性を有するものについては、たとえ懲戒解雇の理由として解雇理由書に記載しなくても、裁判においては、これを解雇の根拠とすることができるものとしました。
 そして、本裁判例は、本件において、被告会社は、本懲戒解雇の際、上記①のみならず②及び③の全てについて認識し、かつこれを懲戒解雇の理由とする意思であったが、多岐にわたるため、懲戒解雇の直接のきっかけとなった①のみを解雇通知書に記載したにすぎず、懲戒解雇理由をこれに限定する趣旨ではなかったものと認められ、このような経緯からすると、①の行為は、②及び③の各行為とともに、原告の勤務態度の劣悪さを示すものであるうえ、本懲戒解雇以前に、原告が所属する組合の副委員長から改善するよう忠告を受けていたものであって、①、②、③は一体として密接な関連性をもつから、①のみならず②及び③の各非違行為もまた、本懲戒解雇の有効性を根拠づけることができ、①、②、③の全ての理由を考えると、本懲戒解雇は有効であるものと判断しました。


3.本判決のポイント

 懲戒解雇時、会社が認識していなかった非違行為を理由として、裁判で追加主張して懲戒解雇をすることはできないという最高裁判決(前記2、山口観光事件)を前提として、これを引用しつつ、懲戒解雇時、会社が認識していたが、理由としてあげなかった非違行為については、理由としてあげた非違行為との密接な関連性を条件として、懲戒解雇の理由として追加主張することを認めた裁判例として、重要な判決です。
 もっとも、「解雇理由書に記載せず、告知もしなかった従業員の非違行為を、会社が本当に懲戒解雇時に認識していたか」ということの証明は必要となります。事案によっては、本判決のようにことごとく全ての理由を懲戒解雇時に会社が認識していたとは判断されない可能性もあり、その場合には、懲戒解雇の根拠・理由となる非違行為が限定され、懲戒解雇が無効となる判断がなされる可能性もあります。したがって、懲戒解雇を行う際には、懲戒解雇時点で会社が解雇理由として認識しているもの全てを明確かつ具体的に記載した解雇理由書を交付して解雇対象の従業員に告知するなどして、解雇手続の有効性に関して後日の従業員と争いにならないようにすることが望ましいものと考えます。

中本 賢(なかもと けん)

本稿執筆者
中本 賢(なかもと けん)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

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