1.事案の概要
本件は、高校用教科書の出版等を業とする債務者(解雇をした会社)が、少子化傾向に伴う生徒減少により業績が悪化したとして、経費削減・業務効率化等を行い、希望退職を募集した後、労働組合との団体交渉と協議を経て、整理解雇を行ったという事案です。 本決定は、従来の裁判所の判断手法(これを判例法理と呼びます。)に従い、いわゆる整理解雇の4要素と呼ばれる4つの要素(①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの相当性)を考慮し、本件整理解雇の有効性について判断しました。 結論として、労働者8名に対する整理解雇を有効、1名に対する整理解雇は無効であると判断しました(1名に対する整理解雇が無効であると判断されたのは、解雇の対象者か否かの基準の適用を誤り、本来は解雇の対象にならない従業員を解雇したためです。)。
2.裁判所の判断の概要
(1)人員削減の必要性について
裁判所は、整理解雇の4要素のうち、①人員削減の必要性については、
- ・会社の業績は悪化の一途をたどっているということができること
- ・会社の業績の悪化は単に一時的なものではなく、この傾向は少なくとも今後数年は継続するものと予想されること
- ・会社は二度にわたり希望退職者募集を行ったが、これに応じた者の人件費では会社の収支を均衡させるに足りる削減人件費には足りず、更なる人件費削減が必要であったこと
といった事情を考慮し、これを肯定しました。
(2)解雇回避努力について
また、裁判所は、②解雇回避努力に関して、会社が社用車の廃止など経費削減の努力をしてきたこと、会社は業務効率化のための施策を実施してきていること、二度にわたり希望退職者の募集を行ったものの、希望退職者募集人員に達しなかったことを考慮し、会社は解雇を回避するための相当な努力を尽くしたものというべきであると判断しました。
(3)人選の合理性について
つぎに、③人選の合理性については、遅刻・早退・欠勤の総合計時間の多寡という解雇対象者の人選基準は、整理解雇における人選基準として想定し得る基準の中でも相当程度客観的かつ合理的な部類に属するものであり、合理性を有すると判断しました(神戸地尼崎支判S53.6.29労判307号25頁・日本鍛工事件を引用)。
(4)手続の相当性について
最後に、④手続の相当性については、希望退職者の募集を行う旨労働組合に予告して以降、団体交渉及び窓口折衝において度々雇用調整及び解雇に関する協議等を行ってきたこと、団体交渉においては、売上高等に関する資料を交付の上で経営状況の概要を説明してきたことを考慮し、会社は整理解雇に当たってこれを正当化する程度に労働組合と協議を尽くしたものということができると判断をしました。
3.本決定のポイント
本決定は明言はしていないものの、整理解雇の4要素のうち、①人員削減の必要性については、会社が倒産の危機にあるといったことまでは要求されないことを前提にしているものと思われます。また、③人選の合理性との関係では、恣意的ではなく客観的かつ合理的な基準であることを要請しているものと思われます。