1 労災による休業中及びその後30日間の労働基準法による解雇制限について
従業員が業務上負傷又は疾病にかかり、療養のために休業している場合、事業主は欠勤期間及びその後30日間は解雇ができないとされています(労働基準法19条1項)。この規定の趣旨は、従業員が業務上負傷等を負ってしまった場合に、安心して療養がとれるようにと定められたものです。
なお、この解雇制限は、上記趣旨から従業員側の過失による負傷等の場合にも適用がされます。一方で、あくまで療養のために休業している従業員に対して適用されるものであり、業務上負傷等があっても休業していない従業員に対しては適用されません。
2 労災休業中の解雇制限が適用されないケース
上記にかかわらず、同解雇制限が適用されないケースもあります。その主たるケースのひとつが冒頭質問の有期雇用社員の雇止めケースです。その他、同解雇制限が適用されないケースもありますので、併せてみてみましょう。
(1)有期雇用社員の雇止めの場合(冒頭質問のケース)
有期雇用社員の雇止めの場合、労働基準法上の解雇制限の適用はないと考えられます。というのも、行政解釈において、「一定の期間…を契約期間とする労働契約を締結していた労働者の労働契約は、他に契約期間満了後引続き雇用関係が更新されたと認められる事実がない限りその期間満了とともに終了する。したがって、業務上負傷し又は疾病にかかり療養のため欠勤する期間中の者の労働契約もその期間満了とともに労働契約は終了するものであって、法第十九条第一項(筆者注:労災による欠勤期間中の解雇制限)の適用はない。」(昭和23年1月16日基発第56号、昭和63年3月14日基発第150号)とされているためです。
上記行政解釈に則った場合、業務上の負傷による休業中においても、雇止めにより労働契約を終了させることは可能という結論になります。
ただ一点注意が必要なのが、労働基準法上の解雇制限の適用がなくても、労働契約法19条の雇止め法理による解雇制限は問題となりうるので、同法の解雇制限には別途注意が必要である点にはご留意ください。
(2)打切補償を支払った場合(労働基準法19条1項但書、同法81条)
事業主は、労災による休業中の従業員にかかる業務上の病気やケガが、治療を開始して3年が経過しても治療が終わらない場合には、当該従業員の平均賃金の1200日分を支払うことにより、法律上の解雇制限を免れることができるとされています(これを打切補償といいます。)。
(3)天変地異その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には解雇制限は適用を免れます(労働基準法19条1項但書)。ただし、この場合、労働基準監督署長の認定を受ける必要があります(労働基準法19条2項)。
「やむを得ない場合」とは、事業場が火災により消失した場合や、震災に伴う工場・事業場の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった場合などが該当するとされています(昭和63年3月14日基発150号・婦発47号)。
(4)定年退職の場合
就業規則で定められた定年に達したことによる退職は、このような解雇制限にはあたらないと考えられています(大阪地岸和田支判S36.9.11参照)。
(5)治療後30日以上経過した場合
ひとつの事例を挙げますと、業務上の負傷等について必要な治療が終わった(これを「症状固定」といい、法律用語で「治癒した」と表現します。)にもかかわらず、従業員が理由なく出勤してこないようなケースでは、労災による休業を保証する趣旨に合致しませんので、法律上の解雇制限の適用はないと判示した裁判例があります(名古屋埠頭事件判決・名古屋地判H2.4.27労判576号62頁参照)。
3 まとめ
以上、業務上の負傷等のため休業している期間中は、原則として休業期間とその後30日間の解雇は制限されますが、上記のとおりその例外もあります。
ただし、労働基準法上の明文による例外規定はともかく、行政解釈(冒頭質問の事例もこれを基に回答しています。)や過去の裁判例による例外に関しては、必ずしも今後の裁判所の判断を拘束するものでないことにご留意ください。この点の個別事案における判断の際には、法律の専門家である弁護士にご相談いただければアドバイスが可能ですので、ご活用ください。