1.高年齢者の雇用確保措置
高年齢者の雇用確保を主な目的として制定された「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下「高年法」といいます。)があります。高年法は平成24年に改正され、定年年齢を65歳未満に定めている会社に対し、次の措置のいずれかを採ることを求めています(高年法第9条)。 ①65歳までの定年の引上げ ②65歳までの継続雇用制度の導入 ③定年の廃止 ②の継続雇用制度とは、雇用している高年齢者を、本人が希望すれば定年後も引き続いて雇用する、再雇用制度などの制度をいいます。この制度の対象者は、平成24年改正前は労使協定で定めた基準によって限定することが認められていましたが、平成24年の改正により、平成25年度以降、希望者全員を対象とすることが必要となっています(ただし、経過措置として、会社が平成25年4月1日時点において労使協定で再雇用基準を定めていたときは、平成37年3月31日まで、その再雇用基準を老齢基礎年金(報酬比例部分)の支給開始年齢以上の年齢の者を対象とする基準として引き続き利用できるとされています(高年法附則第3条)。)。
2.継続雇用制度で再雇用した社員の労働条件
では、継続雇用制度で再雇用した社員の労働条件はどのようなものである必要があるのでしょうか。 高年法が会社に求めているものは、継続雇用制度の導入であり、定年退職者の希望に合致した労働条件での引き続きの雇用ではありません。また、労働契約の内容は労使間の合意により決定されるものです。そこで 、会社が合理的な裁量の範囲の条件を提示すれば、会社と労働者との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年法違反となるものではないとされています。 そして、「合理的な裁量の範囲の条件」か否かは、定年前の労働条件、再雇用後に予定している就労態様、会社の経営状況等の個別具体的な事情に照らして判断されます。裁判例においても、継続雇用制度に基づき再雇用された嘱託社員の給与が定年前の54.6%になっていることが公序良俗に反するか争われた事案において、「嘱託の地位はなるほど上記正社員より後退した内容ではあるが、なお高年齢者雇用安定法の予定する制度枠組みの範囲内であり、その範囲内では、同法の趣旨として期待される定年後の雇用の一定の安定性が確保される道が開かれたとの評価も可能なのであって、公序良俗に違反していると認めることは困難である。」と判断されています(大阪高裁平成22年9月14日判決・労判1144号74頁)。このように、高年法の趣旨に反するような労働条件でない限りは合理的な裁量の範囲の条件となり得ます。 したがって、再雇用後の労働条件について給与を引き下げた労働条件を提示したとしても、直ちに高年法に違反することにはなりません。もっとも、再雇用後の労働条件によっては、同一労働同一賃金との関係で違法となる可能性がありますので、慎重に考える必要があります。
3.同一労働同一賃金との関係での問題
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パートタイム・有期雇用労働法」といいます。)第8条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることを禁止しています。そして、継続雇用制度に従って会社が定年退職した社員と1年の有期労働契約を締結した場合、この社員はパートタイム・有期雇用労働法第8条 の「有期雇用労働者」に当たります。そこで、継続雇用制度で有期雇用された社員が定年前と比べて給与が下がり、同様の就労態様である無期契約労働者(正社員)の給与と相違がある場合には、パートタイム・有期雇用労働法第8条に反しないかが問題になります(なお、パートタイム・有期雇用労働法が令和2年4月1日に施行される前までは、労働契約法20条に同様の規定がありました。)。 この点に関する判断を示した判例に長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決・民集72巻2号202頁)があります。長澤運輸事件では、定年後に嘱託社員として再雇用された社員について、定年の前後で職務内容等に変化がないのに、正社員に支給されている精勤手当、超勤手当(時間外手当)が支給されないことが同一労働同一賃金を定める労働契約法20条に反すると判断されました。 また、名古屋自動車学校事件(名古屋地裁令和2年10月28日判決 )では、定年後に嘱託社員として再雇用された社員について、定年の前後で職務内容や責任の範囲は変わらないのに、基本給が定年前の6割を下回るのは不合理な待遇格差に当たり労働契約法20条に反すると判断されました。 このように、定年後に再雇用をした社員の職務内容や責任の範囲、配置変更の範囲等が正社員と同様である場合には、給与条件の差異が不合理と判断される可能性があります。そのため、定年後再雇用の社員の職務内容や責任の範囲が定年前と異ならない場合には、労働条件の決定は慎重に行うべきと考えます。