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2025/01/17

高年齢雇用継続給付の縮小に伴う企業の対応について

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目次

【本稿は2023年12月号のニュースレターにて執筆されたものです】
 ASCOPEでは企業活動に関わる法改正や制度の変更等、毎月耳よりの情報をニュースレターの形で顧問先の皆様にお届けしております。
 会社法務に精通した社会保険労務士、顧問弁護士をお探しの企業様は、是非ASCOPEにご依頼ください。

1 はじめに

 高年齢雇用継続給付制度とは、高年齢労働者に対して給付金を支給する保険制度ですが、令和7年4月以降、段階的に縮小・廃止されることが決まっています。
 同一労働同一賃金が適用される現在、給付がなくなった後に、定年後再雇用者に対する賃金減額をめぐりトラブルが生じることを防ぐために、企業は、新たな賃金制度等の構築に向けて動き始める必要がございます。
 そこで、本NewsLetterでは、高年齢雇用継続給付制度の縮小・廃止の詳細と、企業の取るべき対応の具体例についてご説明いたします。


2 高年齢雇用継続給付の縮小について

 高年齢雇用継続給付制度とは、高齢者の失業を防ぎ雇用継続を援助・促進するため、65歳未満の労働者に対して一定の給付金を支給する保険制度です。
 平成25年の高年齢者雇用安定法の改正以降、65歳までの雇用確保が既に浸透しつつあること等を背景に、令和7年4月以降、この制度における給付率が下記の表のとおり縮小されることとなりました。

改正前(平成15年5月施行) 改正後(令和7年4月施行)
給付対象者※ 60歳時点の賃金額の75%未満となった状態で雇用を継続する高年齢者 60歳時点の賃金額の75%未満となった状態で雇用を継続する高年齢者
給付率 給付時の賃金が60歳時に比べ
61%以下:15%      →
61%超75%未満:15%未満
給付時の賃金が60歳時に比べ
64%以下:10%
64%超75%未満:10%未満
給付期間 60歳に達する日の属する月~
65歳に達する日の属する月
60歳に達する日の属する月~
65歳に達する日の属する月

※雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険一般被保険者に限られます。

3 企業に求められる対応

 高年齢雇用継続給付の縮小、廃止は、給付を受けている高年齢労働者にとって大きな打撃となります。そのため、現在上記給付の対象となっている高年齢労働者を雇用している企業及び今後定年後再雇用を予定している企業では、令和7年4月以降給付割合が10%以下に下がり、段階的に給付が廃止される予定であること、及びそれに伴い企業においてどのような対処をする予定であるかについての説明を、事前に対象労働者に対して行うことが望まれます。
 以下、企業における対処の具体的な方法を紹介いたします。

⑴ 高年齢労働者の賃金増額等

 これまでに、定年後再雇用者に対する賃金減額について、定年後再雇用者の賃金を定年時より引き下げることそれ自体が不合理であるということはできないという判断がなされた裁判例がいくつかありましたが、賃金減額が不合理ではないことの理由の一つとして、高年齢雇用継続給付金が支給されることを指摘している例が複数見られました(東京高判平成28年11月2日(長澤運輸事件控訴審)、大阪高判平成22年9月14日等)。
 しかし、高年齢雇用継続給付が縮小・廃止された後は、賃金減額の合理性を担保する理由が一つ失われることになりますので、高年齢雇用継続給付が縮小・廃止される前と同じ減額が認められるのか問題となることが考えられます。
 定年後再雇用者に対する賃金減額は、同一労働同一賃金の観点から、定年後の職務内容、責任の程度、配置変更の範囲等に変更がない場合、再雇用者に対する賃金減額は合理性を欠くと判断される可能性がございます。
 そこで、これまで高年齢雇用継続給付に頼った減額での賃金設定をしてきた企業では、定年後再雇用者に対する賃金減額幅を減らすことや、段階的な減額を行うことも考えられます。なお、高年齢労働者に対して適用される賃金規定等の増額改定を行うと、国から事業者に対して助成金が支払われる可能性もございます(下記⑵参照)。
 他方で、賃金の増額改定を行わない場合は、同一労働同一賃金の観点から、定年後再雇用を予定している労働者に対して、職務内容、責任の程度、配置変更の範囲等の労働条件について、減額賃金に見合った内容を提示することが必要となります。
 もっとも、新たな労働条件が、実質的に継続雇用の機会を与えるものとは認められないようなものである場合、高年齢者雇用安定法違反と評価される可能性もあるため、条件の内容については弁護士へ事前にご相談下さい(定年前はデスクワークに従事してきた労働者に対して、再雇用時に清掃作業を職務内容とする労働条件を提示したことが違法であると判断した裁判例として、名古屋高判平成28年9月28日。)。

⑵ 高年齢労働者処遇改善促進助成金の利用

 令和3年4月に高年齢労働者処遇改善促進助成金が新設されました。高年齢労働者の処遇の改善に向けて、就業規則や労働協約の定めるところにより、高年齢労働者に適用される賃金規定等の増額改定に取り組む事業主に対して支給される助成金です。内容は次のとおりです(令和5年4月1日改正後)。

【支給要件】
①以下のBがAの75%以上であることが確認できる事業主であること。
 A:すべての高年齢雇用継続基本給付金を受給している労働者(以下「算定対象労働者」といいます。)の60歳到達時点での1時間当たりの毎月決まって支払われる賃金
 B:賃金規定等を増額改定した後のすべての算定対象労働者の1時間当たりの毎月決まって支払われる賃金
②賃金規定等の改定後の高年齢雇用継続基本給付金の総額が、賃金規定等の改定前よりも減少している事業主であること。
③支給申請日において増額改定後の賃金規定等を継続して運用している事業主であること。
【支給額】
(C-D)×2/3(中小企業以外は1/2)
 C:賃金規定等の改定前の高年齢継続基本給付金の総額
 D:賃金規定等の改定後に、各支給対象期を支給対象期間として算定対象労働者が受給した高年齢雇用継続基本給付金の総額

【まとめ】

 労働条件の変更が合理的であるか否かについては、その内容、方法等が考慮され、法的な判断が必要となります。高年齢雇用継続給付の縮小に先立ち、高年齢労働者の労働条件の変更を検討する場合は、担当弁護士へ事前にご相談下さい。
 労働条件の変更以外にも、企業が取るべき対応とその方法についてご不安な点等ございましたら、お気軽にご相談いただければと存じます。

以上

里見 麻祐(さとみ まゆ)

本稿執筆者
里見 麻祐(さとみ まゆ)
法律事務所 ASCOPE所属弁護士

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