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はじめに
令和5年10月に不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます。)が改正され、いわゆるステルスマーケティング(以下「ステマ」といいます。)を直接規制する条文が本邦で初めて設けられることになりました。
ステマとは、簡単に言えば、企業の商品やサービスについて、その企業※自身による宣伝だと気づかれないように宣伝することや、宣伝されたその広告のことです。
※以下「事業者」ということがあります。
最近では、一般消費者が、企業の商品やサービスの内容について、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNS上でハッシュタグをつけて投稿したり、Googleに口コミを投稿したりすることが多く行われています。
一方、企業側も自社の商品やサービスの宣伝のためにSNSを活用したり、消費者に口コミを投稿してもらったりすることがあります。
ただし、このようなSNSの投稿や口コミで企業の広告を行う際にはステマ規制に注意が必要です。
本News Letterでは、どのような広告がステマ規制により違法となるのか、違法とならないために企業はどのように対応しなければならないのか、簡単に説明させていただきます。
1 ステマ規制の概要
(1)ステマ(ステルスマーケティング)とは…
消費者に広告であることを隠して行う宣伝行為のことです。
会社が、自社と関係のない第三者になりすまして自社の商品やサービスの良い口コミを投稿したり、芸能人、インフルエンサー、一般消費者などに利益を提供して依頼し、広告であることを隠して商品やサービスについて好意的な情報発信をしてもらったりする行為が該当します。
(2)ステマ規制の根拠条文
今般ステマ規制が追加される法令は、景品表示法という法律です。
この法律の規制対象は、事業者が行う消費者向けの広告表示全般であるため、注意する必要があります。対象条文は以下のとおりです。
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
…(略)…
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
↓「内閣総理大臣が指定するもの」の具体的な内容として…
景品表示法第5条第3号の規定に基づき、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示を次のように指定し、令和5年10月1日から施行する。
事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの
上記のように、今回の法改正では、景品表示法で禁止される「不当表示」(景品表示法第5条3号)の一類型として、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(=ステマ)が新たに指定され、具体的には「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」と指定されました。
2 要件
上記のとおり、ステマ規制の対象は「事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」となります。
これを2つの要素に分解すると、以下のようになります。
②事業者による表示であることを一般消費者が判別することが困難であること
これらの要素について、消費者庁の運用基準1に沿って説明します。
要件① 事業者が自社の商品やサービスの提供について行う表示であること
ステマ規制の対象となるのは、「事業者が行う表示」です。これは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合を指しており、以下の2つの場合があります。
「事業者が行う表示」…
ア.事業者自ら行う表示(事業者自身)
イ.事業者が第三者に行わせる表示(例:芸能人、インフルエンサー等)
「ア.事業者自ら行う表示」はその名のとおり事業者自身が行うものです。
事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員や、事業者の子会社等の従業員が行った表示も、その従業員の地位・立場や表示の目的によっては、「事業者自ら行う表示」に含まれる可能性があります。
1 令和5年3月28日 消費者庁長官決定「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/assets/representation_cms216_230328_03.pdf
<具体例>
違法となると考えられる例 | 違法とならないと考えられる例 |
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化粧品販売会社の営業部や販売部の社員が、消費者として、この投稿によって販売が促進されるかもしれないと思いながら、自社で新発売の化粧品について「この化粧品で肌がツルツルになった。」とか「来月からこの化粧品が新発売の予定です。」などと投稿する場合 | 化粧品販売会社の経理部の社員が、消費者として、自社で新発売の化粧品について、販売促進する目的ではなく、単に自身の感想として「この化粧品で肌がツルツルになった。」と投稿する場合 |
なお、上記の具体例のとおり、ステマ規制の対象となる「表示」(広告)の内容は、必ずしも商品の優良さに言及するもの(例:「この化粧品で肌がツルツルになった。」など)に限られません。単にその商品の認知度を向上させようとする表示(例:「来月からこの化粧品が新発売の予定です。」など)もステマ規制の対象となる表示に当たりますので、ご留意ください。
「イ.事業者が第三者に行わせる表示」は、外見上は事業者自身ではなく第三者が行う表示のように見えるけれども、事業者が表示内容の決定に関与したことで、実質的に事業者の表示であると見なされるものをいいます。そして、「事業者が第三者に行わせる表示」であるかどうかは、事業者がその表示内容の決定に関与したかどうか(客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容とは認められないといえるかどうか)で判断されます。
したがって、事業者が表示内容の決定に関与していない第三者が自分の意思で行う自主的表示は「事業者が第三者に行わせる表示」には当たりません。
客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められるかどうかどうかは、事業者と第三者の間のやりとりの有無や内容、対価の有無や内容、過去や今後の関係性などから総合的に判断されます。
<具体例>
違法となると考えられる例 | 違法とならないと考えられる例 |
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化粧品会社がSNSを通じた投稿を依頼しつつ、投稿してもらうためにその会社の化粧品を無償で提供し、投稿してほしい内容の方向性を伝え、その結果、投稿者が化粧品会社の方針に沿った投稿を行った場合 | Amazonを経由した化粧品の購入者に対して、化粧品会社がAmazonのレビューを依頼し、「レビューを投稿すれば次回利用できる2000円のクーポンを配布します。」と伝えたが、投稿の内容については化粧品会社と購入者との間のやりとりは一切なく、購入者が自主的な意思でレビューの内容を決定した場合 |
化粧品会社がこれまで継続的に取引を続けてきたインフルエンサーに対して「新発売の化粧品について、Tiktokで投稿してくれれば、今後も取引を継続します。」と言って依頼した場合 | 化粧品会社が一度も取引をしたことがなく、今後の取引の予定もないインフルエンサーに対して「新商品のビールについて、Tiktokで投稿してくれませんか。」とだけ依頼し、インフルエンサーが自主的な意思に基づく内容として投稿する場合 |
要件② 事業者による表示であることを一般消費者が判別することが困難であること
ステマ規制の対象となるもう1つの要件として、事業者が関与して行った表示であることを、一般消費者が判別することが困難であることという要件があります。この点については、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているかどうか、第三者の表示であると一般消費者に誤認されないかどうかを表示内容全体から判断することになります。
逆に言うと、事業者による表示が、事業者の広告であることがわかる形式になっていれば、ステマ規制の対象にはならないということになります。
例えば、事業者の広告であることが全く記載されていない場合や、記載されているとしても不明瞭な方法で記載されており、一般消費者が広告であることを認識できない場合には、ステマ規制の対象になりますが、事業者の広告であることが一般消費者に認識できるような形式で記載されている場合には、ステマ規制の対象にはなりません。
<具体例>
違法となると考えられる例 | 違法とならないと考えられる例 |
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化粧品会社が、Youtuberに化粧品を提供して、Youtubeに「おすすめです!」と投稿するよう依頼し、実際に動画を投稿してもらった。 ①当該動画には会社の広告であることが一切表示されていない。 ②当該動画には、「※プロモーションです」と表示されているが、極めて小さい文字でしか書かれていない。 ③当該動画には、「※プロモーションです」と表示されているが、本編でYoutuberが「これは第三者としての感想を述べています。」と伝えており、当該動画が会社の広告であるかどうかがわかりにくくなっている。 |
化粧品会社が、Youtuberに化粧品を提供して、Youtubeに「おすすめです!」と投稿するよう依頼し、実際に動画を投稿してもらった。 ①当該動画の冒頭で、会社の広告であることを伝えた上で、動画の本編でも、画面右上に「※プロモーションです」と継続的に表示した。 ②当該動画の冒頭で、会社から商品の提供を受けて投稿していると伝えた上で、動画の本編でも、画面右上に「※会社から商品の提供を受けて投稿しています」と継続的に表示した。 |
3 ステマ規制に違反した場合の処分・罰則等
ステマ規制(景品表示法第5条3号)に違反した場合、消費者庁や都道府県から、不当表示の事実の周知や再発防止を命じる措置命令が出される可能性があります(景品表示法第7条1項)。
措置命令は、ステマ規制などの「不当な表示」によって一般消費者に与えた誤認を会社が排除し、原状回復することを求めるものです。措置命令が出されると、会社としては、会社のホームページ等で「ステマ規制に違反して広告を表示していました」という事実を公表しないといけなくなったり、再発防止のための措置(調査委員会の設置、監視機関の設置、各種研修の充実等)を行わないといけなくなったりします。
この措置命令に従わない場合、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金あるいはその両方の刑事罰が課される可能性があります(景品表示法第36条1項)。
なお、措置命令の内容は消費者庁や都道府県のwebサイトなどで公表されることがあります。
以上のとおり、措置命令は企業のレピュテーションへの影響に大きく繋がってしまうため、ステマ規制に違反しないことは非常に重要な問題となります。
4 最後に
ステマ規制は、ルールを知らない従業員が不注意で違反してしまうこともあり、それが発覚すると措置命令等のペナルティを受け、一般消費者からの信頼を失うことに繋がってしまいます。
インフルエンサーに報酬を支払って投稿を依頼する場合や、消費者に報酬を支払って投稿を依頼する場合など、わかりやすい事例だけがステマ規制の対象になるわけではありません。従業員が特別の悪意なく、自社商品について好意的な感想を投稿した場合でも、それが自社商品の投稿であることを言わなければ、ステマ規制になり得るということになります。
このように、知らないうちにステマ規制に違反してしまうことがあるため、会社としては、以下のような対策を講じておくべきと考えられます。
・景品表示法の考え方を社内で周知・啓発すること
→従業員への社内周知、弁護士による社内研修等
・広告、宣伝に関して、方針や社内でとるべき手順を明確にし、ルールを設けること
→「このような広告は行わない」、「このような宣伝方法は行わない」等
・消費者庁の調査が入った際に、自身の適法性を示す証拠を残しておくこと
その他ご不明な点がありましたら、弊所までお問い合わせください。
以上