1.「労働時間」とは
労働基準法上の「労働時間」とは,「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されています(最判平成12年3月9日等(民集第54巻3号801頁)。すなわち,従業員が会社の指示に基づいて,何らかの作業を行なっている時間は,労働時間となります。なお,会社の指示が黙示で行われた場合であっても,会社の指揮命令下に置かれていたと評価され,労働時間と認められることもあります。
2.「早出残業」とは
また,残業時間とは,一般的に法定労働時間を超えて働いた労働時間を指します。具体的には,1日に8時間を超えて労働した時間及び1週間に40時間(特例措置対象事業場の場合は44時間)を超えて労働した時間を指します。 そして,早出残業とは,始業時刻よりも前に勤務して発生した残業時間のことを指します。
3.裁判例の検討
(1) 東京地判平成24年3月23日 (株式会社乙山事件)
同裁判例は,所定の始業時刻よりも前に出社していた従業員の残業時間が問題となった事案において,従業員が会社の業務に着手しており,かつ,会社も,従業員が早く出社して業務を行っていることを黙認せざるをえない状況であったとして,労働者の実労働時間の開始時(始業時)は,所定始業時刻ではなく,実際に労働者が出社していた時刻である旨の判断をしました。
(2) 東京地判平成25年12月25日 (八重椿本舗事件)
同裁判例は,所定始業時刻よりも前に出社していた場合に,この早出出勤に係る時間が労働時間に当たるか否かが問題となった事案において,早出残業は,終業時刻後のいわゆる居残り残業とは異なり,通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や,生活パターン等から早く起床し,自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情によって早く出社することも多く見受けられるとの理由から,早出出勤の業務上の必要性について具体的に検討されるべきであるとし,この事案においては,早出残業が,労働時間に該当するに認めるに足りる証拠はなく,労働者の請求は認められない旨の判断をしました。
(3) 裁判所の考え方
上記裁判例を踏まえると,従業員の始業時刻前のいわゆる早出残業については,具体的な業務上の必要性等がない限り,基本的には労働時間に当たらないものと考えられます。もっとも,(1)でも記載したとおり,従業員が始業時刻よりも前に出社していることを会社が黙認していた場合など,会社が従業員に対して默示の指揮命令権を行使していたと認められるような場合には,早出残業も労働時間と認定されることもありますので,その点については,注意する必要があります。
4.默示の指揮命令権があると評価されないために
会社が,従業員に対し,早出残業に関して默示の指揮命令権を行使していると評価されないためには,以下のような方法を採ることが考えられます。
(1) 個々の従業員に対して早出残業の注意・指導等を行う
まず,会社としては,早出残業を行なっている従業員に対し,早出残業を行なっている理由を問い,その理由について録音や書面等の証拠を残しておくことが必要です。 br> また,早出残業の理由を問い,早出残業を行うことを止めるよう注意したにもかかわらず,当該従業員が早出残業を継続する場合には,当該従業員に対し,口頭ではなく,書面により注意・指導をすることも重要です。なお,早出残業を止めるよう注意する場合,この注意についても書面により注意するか,注意について録音しておく必要があります。
(2) 社内通達等で早出残業が必要ではない旨の周知を行う
さらに,早出残業が必要ないのであれば,会社が,全従業員に対し,早出残業が必要ではないため,所定の始業時刻より業務に従事するよう,証拠が残る形で周知することが必要です。具体的には,会社が,従業員に対し,早出残業が必要ではないため,所定の始業時刻より業務に従事するよう求める通達書の交付や,メールを送信することが考えられます。 なお,会社の代表が,朝の朝礼等で,早出残業を行わないように口頭で周知することも方法としては考えられますが,口頭での周知は,後日,周知の事実の存否について争いになることが想定されるため,書面等,形に残る方法により周知することが重要です。 周知をしたにもかかわらず,一部の従業員が早出出勤を継続する場合には,(1)のとおり,注意指導等を実施する必要があります。