1.裁量労働制の概要
裁量労働制とは、業務の遂行の方法を労働者の広範な裁量に委ねている場合において、一定の条件の下、当該労働者の労働時間を労使協定等で定める一定時間につき労働したものとみなす制度のことをいいます。 裁量労働制には 、①放送番組制作のプロデューサーなどの一定の専門職に適用される「専門業務型」と、②企業の中枢部門において企画・立案・調査・分析の業務を行う労働者に適用される「企画業務型」があり、それぞれ対象範囲や要件などが異なります。
(1)専門業務型裁量労働制(労基法第38条の3)
ア.対象業務 専門業務型裁量労働制を採用できる対象業務は以下のとおりです
以上の対象業務に該当しない場合には、専門業務型裁量労働制を採用することができません。 例えば、設計書に従ってプログラムを作成するプログラマーは上記②の「情報処理システムの分析または設計の業務」に該当せず(京都地判平成23年10月31日)、また、税理士補助業務は上記⑱の「税理士の業務」に該当しません(東京高判平成26年2月27日)。
イ.労使協定の締結 専門業務型裁量労働制を採用するには、事業場の労使協定において、以下の事項を規定し、所轄の労基署長に届け出る必要があります(労基法第38条の3第1項、2項、第38条の2第3項)。
ウ.就業規則の整備等 労使協定が締結されたとしても、これがそのまま雇用契約に反映されるわけではありません。専門業務型裁量労働制を採用するためには、対象労働者に関する労働協約、就業規則または労働契約において、労使協定に沿った内容の規定を設ける必要があります。
(2)企画業務型裁量労働制(労基法38条の4)
ア.対象業務 企画業務型裁量労働制の対象となる業務は、「企画」、「立案」、「調査」及び「分析」という相互に関連し合う作業を組み合わせて行うことを内容とする業務です(労基法第38条の4第1項1号)。 労働省(現厚生労働省)の指針によると、上記対象業務の例として、経営企画を担当する部署における業務で言えば、「経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務」や「現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務」がこれに該当します。
イ.対象労働者 企画業務型裁量労働制の対象労働者は、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」(労基法38条の4第1項柱書・2号)となります。そのため、当該業務に初めて従事する労働者には企画裁量労働制を適用することはできません。
ウ.手続的要件 (ア)労使委員会の設置・労使委員会による決議・決議の届出 この制度を採用するためには、労使委員会において、対象業務や対象労働者の範囲、みなし労働時間数、労働者の健康や福祉を確保するために使用者が講ずる処置、労働者の苦情の処理手続き、労働者本人の同意を得るべきこと及び同意しなかったことを理由に不利益取扱いをすべきでないことなどについて、委員(労使各側同数)の5分の4以上の多数によって決議し、使用者がその決議を労基署に届け出ることが必要です。 (イ)労働者の同意 企画裁量型裁量労働制を適用するためには、個々の労働者からの同意を得る必要があります。
2.割り増し賃金の支払い
裁量労働制が採用される労働者においても、休憩時間、深夜業、休日等に関する法規制は及びます。 したがって、例えば、裁量労働制の適用される労働者が深夜や休日に勤務した場合には、その時間分についての割増賃金を支払う必要がありますので、裁量労働制を採用される際にはご注意ください。
3.本件について
取材・編集業務を行う従業員については、専門業務型裁量労働制の対象業務のうち、上記③の「記事の取材若しくは編集の業務」に該当しますので、上記の一定の条件を満たしたうえで所定の手続きを経れば、同制度を採用することができます。 一方で、経営企画室の庶務係を務める従業員については、当該業務内容は、「経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務」でも「現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務」でもなく、業務内容に従業員の裁量が認められませんので、企画業務型裁量時間制の対象業務に該当せず、同制度を採用することができません。