1.2024年問題とは
まず、「2024年問題」とは、働き方改革関連法によって定められた時間外労働の上限規制が運送業界にも本格的に適用されることを指します。もともと運送業界は人手不足や運行スケジュール上の特殊性から、適用を猶予されていましたが、2024年4月1日以降、年間の残業時間が960時間を超えないようにする必要があるとされています。 この規制に違反すれば、労働基準監督署の是正勧告や罰則の適用対象となる可能性がありますので、注意が必要です。加えて、いわゆる「サブロク協定(36協定)」に特別条項を設ける場合でも、無制限に延長できるわけではなく、特別条項を利用するには、業務量の急増や予期せぬ事情など、特別な理由が必要であり、単なる繁忙を理由に適用することはできません。
2.運送業界の残業時間管理に関するリスク
運送業界は長年、長時間労働が社会問題と指摘されながらも、業務の性質上やむを得ない部分があるとして容認されてきた面があります。しかし、今後は次のようなリスクが高まると考えられます。 【労働基準法違反による行政処分】 残業時間の上限を超えてドライバーに走行させ続けた場合、企業として労働基準法違反の責任を負う可能性が高まります。 【安全配慮義務違反の追及】 過労運転が事故につながる又は過労により心身を害すると、被害者やドライバー本人から「会社の安全配慮義務違反」として損害賠償請求を受けるおそれがあります。裁判所においても、長時間労働が原因であると認定されれば企業の責任は否定しにくいでしょう。 【労働者の大量離職】 法令遵守ができない企業は「ブラック企業」と見なされ、人手不足がさらに深刻化するおそれがあります。せっかく育成したドライバーが過酷な勤務状況を理由に退職してしまうケースもあり得るため、経営の安定を損ねるリスクがあるといえます。
3.企業としての対応
このようなリスクに備え、運送業者が講じるべき対策としては、主に次のようなものが考えられます。 【就業規則・運行管理規程の整備】 時間外労働の算定方法やシフト管理の方針を明確化し、ドライバーに周知する必要があります。とりわけ運転日報やタコグラフなどのデータを活用し、実労働時間をきちんと把握する仕組みを整備することが重要です。 【荷主との契約条件の見直し】 無理な納期や深夜配送の常態化が長時間労働の原因になる場合があります。荷主に対して正当な運賃や余裕ある配送スケジュールを設定してもらうべく、契約条件を交渉・修正することも検討すべきでしょう。 【変形労働時間制やシフト制の活用】 一定の期間を通じて労働時間を調整できる変形労働時間制などを採用することで、忙しい時期と比較的暇な時期をバランスよく配分できる場合があります。もっとも、制度導入の際には労働者の同意や届出が必要なことに留意が必要です。
4.まとめ
「2024年問題」は、運送業界にとって長時間労働の是正を強く迫る転換点となることが予想されます。従来のやり方が通用しなくなる一方で、ドライバーの安全や労働環境を改善する好機ともなり得るでしょう。 もっとも、改正法令への対応を怠れば、企業に重大なリスクが生じる可能性があります。就業規則の整備、運行管理体制の再構築など、できることは早めに着手することが望ましいと考えられます。